AppleのCEO、独占否定も譲歩示す フォートナイト訴訟
クック氏、批判に配慮か
【シリコンバレー=白石武志】米アップルが人気ゲーム「フォートナイト」をめぐる法廷闘争の長期化に焦りを見せ始めた。念頭にあるとみられるのが、米IT(情報技術)大手の寡占に目を光らせる米議会の存在だ。21日の証言でティム・クック最高経営責任者(CEO)は和解に前向きな姿勢を示し、幕引きしたい意向をにじませた。
21日、クック氏はグレーのスーツに黒のネクタイ姿でカリフォルニア州オークランドにある連邦地裁に姿を現した。エレベーターに乗り込む際には建物の外に詰めかけた報道陣にピースサインを送る余裕も見せた。
証言では、自社の事業モデルは独占にはあたらないとの主張を繰り返した。主戦場のモバイル端末市場では米グーグルなどとの「激しい競争がある」と強調。同社の基本ソフト(OS)「アンドロイド」を搭載した端末への顧客流出が頻繁に起きていると説明した。ゲーム配信ではゲーム専用機との競争にさらされていると主張した。

アップルを訴えたのはゲーム開発の米エピックゲームズだ。外部企業によるスマホ「iPhone」などへのアプリ配信を認めないアップルが市場を独占していると主張。アップルが徴収する原則30%の配信手数料も高額だと批判する。
21日のクック氏の法廷証言で注目を集めたのは、同氏が強気一辺倒ではなかった点だ。
アップルは意図的な規約違反があったとして2020年8月、アップストアでのフォートナイトの配信を停止したが、クック氏は「ルールさえ守ってくれれば(ユーザーの)利益になると思う」と述べ、配信再開に前向きな姿勢を示した。
徹底抗戦で米議会や米独禁当局を刺激したくないとの思いがあるとみられる。米民主党議員の間では反トラスト法(独占禁止法)の改正やアプリ配信市場の規制強化を目指す動きがある。法廷闘争が長引けば、巨大企業アップルとアプリ開発者が対立しているという印象が一段と強まる。
パソコン用OSと閲覧ソフトの抱き合わせ販売などをめぐって米司法省との独禁訴訟を繰り広げたマイクロソフトは2000年代初めに技術革新が停滞し、ネット広告などの分野でグーグルやフェイスブックの台頭を許した。そのネット広告大手2社も20年、米独禁当局から反トラスト法違反で相次いで訴えを起こされた。

米議会はアップルについても反トラスト法に違反する行為がないかどうかに関心を寄せている。米上院が4月に開いた公聴会では、音楽配信大手スポティファイ・テクノロジー(スウェーデン)の幹部らが「30%の手数料が重く、月額利用料を値上げせざるをえなかった」などと証言。アップルに対する議会や規制当局の視線は厳しさを増している。
エピックとアップルの係争を扱うカリフォルニア州北部地区連邦地裁のロジャース判事は21日、市民から選ばれた陪審員が8月13日までに結論を出すとの見通しを示した。
21日付の米ビジネス誌「ファスト・カンパニー」は、アップルが勝訴しても当局の規制強化を招くことで「戦争には負けるかもしれない」との論考を掲載した。米メディアでは、アップルがエピックに独自の決済を認めるなどして和解に持ち込む可能性も指摘され始めている。