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Google、「量子超越」の拠点公開 2029年にも実用化へ

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【サンタバーバラ(米カリフォルニア州)=白石武志】米グーグルは21日、カリフォルニア州南部にある量子コンピューターの開発拠点を報道陣に公開した。2019年にスーパーコンピューターの能力をしのぐ「量子超越」を達成した研究開発チームが入居する。29年までに技術を完成させ、気候変動など差し迫った難問の解決に役立てることを目指している。

IT(情報技術)企業が集積するシリコンバレーから車で南に約4時間半。カリフォルニア大学サンタバーバラ校の近くに、グーグルが21年に開設した「量子AI(人工知能)キャンパス」がある。複数の建物に分かれた施設では100~200人が研究開発などに従事する。

壁画が描かれた開放的な施設内には「シルバー(銀)」や「グレーシャー(氷河)」など色や自然にちなんだ名前が付けられた約20台の量子コンピューターが並ぶ。天井には配管が行き交い、施設内には冷却用のヘリウムを圧縮するコンプレッサーの音が響き渡る。

量子コンピューターを覆う容器の中は、宇宙で最も温度が低い場所の一つだ。超電導を起こして量子の信号を検出できるようにするために、最も低温な部分は絶対零度(セ氏マイナス273.15度)に近い。装置を常温から極低温にまで冷却するには数日を要する。

信頼性はいまだ「真空管」段階

従来のコンピューターは「0」か「1」かで情報を処理するが、量子コンピューターは「0であり、かつ1でもある」という特殊な状態で計算する。この状態は「量子ビット」と呼ばれる計算単位を表し、数の多さは計算性能に直結する。

「我々の制御方法はある意味、量子ビットに音楽を聴かせているようなものだ」。グーグルの量子AIキャンパスでリードエンジニアを務めるエリック・ルセロ氏は量子コンピューターの制御方法について、楽譜を書く行為に近いと説明する。

量子コンピューターの世界では、従来型のコンピューターで使われる命令などの仕組みは用意されていない。代わりに楽譜を書くように波形の束をプログラムし、信号を送り込むことで異なる量子ビットを相互作用させ、演算可能な状態を作り出していくのだという。

グーグルは19年、53個の量子ビットを使い、最先端のスーパーコンピューターで約1万年かかる計算を約3分で解いたと発表した。量子コンピューターの開発で競合する米IBMが成果を誇張しているとして物言いをつけるなど、大きな論争を呼んだ。

このとき達成した量子超越は科学界にとっても大きなマイルストーンとなったが、量子コンピューターの研究はまだ黎明(れいめい)期にある。グーグルによると現在の量子ビットは計算結果が不安定なアナログな技術で、従来の技術で例えると真空管の時代とほぼ同じだという。

グーグルの現在の目標は、約1000個の量子ビットを組み合わせることで計算の際に発生する誤りを訂正する機能を持つ「論理量子ビット」を完成させることだ。この段階に達することで、量子コンピューターはようやく「トランジスタの時代を迎える」(ルセロ氏)。29年までに1000個の論理量子ビットを同時に制御することを目指している。

電池・素材分野で活用

グーグルが量子コンピューターの活用事例として挙げるのが、電池や素材、触媒などの分野だ。例えば人類は増加する人口を養うための肥料の生産に大量のエネルギーを消費している。グーグルは量子コンピューターの計算能力を使って製造法に革新をもたらし、環境負荷を軽減することを目指している。

ただ、あらゆる利器と同様に量子コンピューターも凶器になりうる。暗号解読などに応用された場合、世界の情報セキュリティーの前提が一変するおそれもある。中国政府は外国勢力からの盗聴を防ぐ技術としての可能性に着目し、量子暗号通信などの開発に力を入れるとされる。

グーグルも地政学リスクと無縁ではない。量子AIキャンパスの研究開発成果の一部は米国の輸出管理規制を受ける。入館に際しては中国やイラン、ロシアなどの市民や永住者でないことを証明する書類への署名が求められる。

「量子力学を理解したと思ったら、量子力学を理解していないということだ」。ノーベル賞受賞者で、原爆開発にも関わった物理学者のリチャード・ファインマンはこんな警句を残したとされる。研究開発の先頭を走るグーグルでさえ、次世代技術の実現の道筋や、文明に与えるインパクトを正確には見通せていない。

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

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