米航空、需要回復に人手追いつかず アメリカンは減便

【ニューヨーク=大島有美子】米航空大手で人手不足が深刻な問題になっている。アメリカン航空は19~20日の週末、乗務員が足りなくなるなどして約300便をキャンセルした。ユナイテッド航空もパイロット不足に懸念を示す。新型コロナウイルスのワクチン接種が進み、足元で急回復する需要に人手が追いつかない。各社はコロナ禍で無給休暇扱いとした従業員の呼び戻しを急ぐ。
「空いている施設でトレーニングを」。ある米航空大手では、新型コロナ下で無給休暇としていた客室乗務員などを現場に戻すための訓練が急ピッチで進む。失業状態からの復帰が決まり、訓練を受けている女性乗務員は「既に7月のフライトスケジュールが入っている。同僚も一斉に戻ってくるだろう」と話す。
アメリカンが週末の2日間に欠航とした便数は2日間全体の6%程度に当たり、7月半ばまでにさらに数百便を減らす見通しだ。同期間にキャンセルする便数は1%に相当する。アメリカンの広報担当者は日本経済新聞に対し「悪天候と人手不足、旅客需要の急増が重なり、運航の調整に至った」と説明した。米メディアによると、アメリカンは競合のユナイテッドやデルタ航空と比べ、7月に約2割多い便数を運航する予定を組んでいた。

米運輸保安局(TSA)によると、19~20日の米国内空港の通過人数は1日当たり約200万人となり、19年の同期比で2割減の水準まで回復した。20年の同時期は19年比8割減だった。人々が国内旅行に出かけるようになり、飛行機の利用が急回復している。各社は一斉に従業員の呼び戻しに動いているが、追いつかない状況だ。
急激な需要回復と供給制約に伴う経済のひずみは飲食店や製造業など様々な産業で見られるが、前例のない需要蒸発と急回復に直面する航空会社も例外ではない。米労働省によると、航空業界の雇用者数は20年2月に52万人いたが、同年6月には3割減の38万人まで落ち込んだ。21年5月時点はまだ2割減の43万人にとどまっている。
米証券取引委員会(SEC)に提出された資料で見ると、アメリカンとユナイテッドの従業員数は20年12月末、19年12月末と比べて5万人超減った。19年時点の約2割に相当する。

アメリカンのパイロットの労働組合の広報担当者、デニス・タジェール氏は「人手不足を解消するため、パイロットの勤務に柔軟さを持たせて時間外労働手当を増やすなどの手段を取るべきだ」と話す。ユナイテッドのスコット・カービー最高経営責任者(CEO)は20日、米ニュースサイト「アクシオス」のインタビューで「(長期的に)パイロット不足に向き合うことになる」との認識を示した。
ある航空大手の客室乗務員は「無給休暇中により良い条件の仕事に就いた人は戻らず、自主退職募集の好条件を機にリタイアした人もいる」と話す。米政府の航空会社の従業員向けの給与支援は9月末まで続く。「急に今の仕事を辞めることもできず、政府支援が続くまで戻らないと決めた人もいる」という。
各社は従業員に安心感を与えるために工夫を凝らす。ユナイテッドは6月中旬、政府支援が切れた後に客室乗務員の人員削減をしない旨を社内に通知した。他の部門も含め大半の従業員を職場に戻す。15日以降の新規採用者に対してはワクチン接種証明の提出を義務付けた。デルタも新規採用者に同様の措置を講じている。
※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。
この投稿は現在非表示に設定されています
(更新)

新型コロナウイルスの感染症法上の分類が2023年5月8日に季節性インフルエンザと同じ「5類」に移行しました。関連ニュースをこちらでまとめてお読みいただけます。
-
【よく読まれている記事】
- 新型コロナウイルスは体内にいつまで残るのか
- 「コロナに決してかからない人」はいるのか?
関連企業・業界