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ロシア「核の脅し」緩めず 次世代ICBM、経済苦境映す

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【ワシントン=中村亮】ロシア軍は20日、次世代の大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を実施した。米欧との緊張を高めてウクライナへの軍事支援を停止するよう迫る狙いがある。米欧による制裁で経済や武器生産が停滞し始め、ロシア軍の脆弱性も指摘される中で、国際的な影響力を維持するには核ミサイルの戦力を誇示する以外に有効な手が乏しい状況も浮かび上がる。

ロシア国防省は20日、次世代の重量級ICBM「サルマト」の発射実験に成功したと発表した。ロシアのプーチン大統領は「最高の性能を持ち、現代の全てのミサイル防衛システムを突破できる」と主張。「我々を脅かそうとする者の考えを改めさせるだろう」と語った。米欧に対してウクライナ問題への関与を弱めるべきだとのメッセージを送ったのは明白だ。

米戦略国際問題研究所(CSIS)や米議会調査局によると、サルマトの最大射程は1万8000キロメートルで、10個程度の核弾頭を搭載できる。核弾頭は飛行途中にそれぞれ分離されて別々の攻撃目標に向かうため、迎撃する難度は上がる。核弾頭の搭載数を減らせば、北極回りだけでなく米軍のミサイル防衛網が手薄な南極回りで米本土を攻撃できるとされる。

サルマトの開発を手がける国営宇宙開発企業ロスコスモスのトップ、ドミトリー・ロゴージン氏は20日、SNS(交流サイト)に「今年秋には、スーパー兵器であるこの重量級ICBMを戦略ロケット軍に供給し始める計画だ」と書き込んだ。

米国防総省のカービー報道官は20日、記者団に対して新戦略兵器削減条約(新START)に基づいてロシアから実験の事前通告があり「サプライズではなく、脅威とみなしていない」と説明した。一方で国防総省高官は実験について「とくにこの状況下において責任ある核大国がやることではない」と語り、不信感をあらわにした。

プーチン氏は2月末、核戦力部隊に対して「高度な警戒態勢」に入るよう指示した。米国と旧ソ連が核戦争に突き進みかねないとされた1962年のキューバ危機以来、最高の緊張状態になったとみる向きがあった。3月下旬にもロシアのペスコフ大統領報道官はCNNテレビのインタビューで核使用の可能性を排除しない考えを示した。

カーネギー国際平和財団のジェームズ・アクトン氏は、ロシアが核兵器による緊張をさらに高める場合の兆候の一つとして核弾頭の移動に注目すべきだと指摘する。

アクトン氏によると敵の軍事施設や基地への限定攻撃に使う戦術核について、ロシアは核弾頭と、運搬システムである地上発射型ミサイルや爆撃機を別々の場所に保管している。核弾頭を運搬システムの配備場所に移せば、核使用に近づいたとみなされる。米軍は人工衛星で核弾頭の動きを把握できるとみられ、緊張が一気に高まる。

ロシアが核の脅しを強める背景には、通常兵器を使ったウクライナとの戦闘が思うように進んでいないことへの焦りがある。ロシア軍は長引く戦闘で兵力や軍備を消耗させており、欧米がウクライナ軍に軍事支援を続ける限り、戦局の打開は望みにくい。

複数の米メディアによるとロシアは4月中旬、米政府に対してウクライナへの武器供与は「予測できない結果」を招くと警告した。これはバイデン米政権がウクライナに同国東部での戦闘でカギを握る兵器の供与を決めたタイミングと重なる。

経済制裁も重くのしかかる。ロイター通信によるとプーチン氏は20日、金属産業に関する会合で米欧による経済制裁によってロシア企業が部材調達を制限され、金属製品の生産が滞っていると指摘。世界貿易機関(WTO)のルールに違反していると訴え、側近らにWTOでの対応策を6月1日までにつくるよう指示した。

米欧の輸出規制は武器生産にも打撃になる。米国防総省高官は18日、記者団に対して「ロシアは兵器システムの部材(の不足)によって在庫の補充で課題にすでに直面している」と分析した。経済制裁の成果だと主張し、とくに精密誘導弾の補充が滞っていると指摘した。

高性能の兵器生産が難しくなれば、中長期的には外交で対ロシア包囲網が狭まるシナリオも考えられる。ロシアに中立的な立場を堅持するインドや東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国は武器調達でロシアへの依存度が高い。ロシアからの供給が滞れば、各国は調達先を他国に広げる公算が大きく、ロシアに配慮する必要性は薄れる。

米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は4月上旬、下院軍事委員会の公聴会で、ウクライナ侵攻に関して「少なくとも数年単位になる」と証言した。数年単位で制裁が続けば、ロシア経済は立ちゆかなくなる可能性があり、プーチン政権は事態打開に向けて核戦力の脅しに今後、さらに傾斜する可能性もある。

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