FTX創業者の政治献金、新経営陣が返還要請

【ニューヨーク=竹内弘文】暗号資産(仮想通貨)交換業大手FTXトレーディングは、詐欺罪や選挙資金規制違反などで起訴された創業者サム・バンクマン・フリード被告による献金について、返還を要請する考えを示した。同被告や元側近は合計約7000万ドル(約90億円)の政治献金を実施。仮想通貨の規制議論に対し影響力を高めようとした可能性がある。
FTXは、関連する投資会社アラメダ・リサーチの損失を顧客資金で穴埋めしたことが発覚し、11月11日に米連邦破産法11条(チャプター11)の適用を申請して経営破綻した。前の最高経営責任者(CEO)のバンクマン・フリード被告は米連邦地検に起訴され、カリブ海の島国バハマで拘束されている。
新たな経営陣のもと、FTXは正確な財務状況の確認と並行して債務弁済に向けた資金回収を急いでいる。19日の発表によると、バンクマン・フリード被告らによる献金や寄付を受け取った人や団体からFTX側に資金を返還する旨の連絡が多数寄せられた。自発的に返還がない場合、訴訟に踏み切るという。
政治資金の流れを調べる非営利団体オープンシークレッツによると、バンクマン・フリード被告は2022年の中間選挙期間中に個人で計3883万ドルを政治献金した。リベラルな政治資金管理団体向けなど多くは民主党向けで、仮想通貨推進の超党派団体にも献金した。個人の献金額では6番目に大きく、民主党への大口献金者に限れば著名投資家ジョージ・ソロス氏に次いで2番目の金額だった。
元側近も多額の献金をしていた。FTXのバハマ子会社の共同最高経営責任者(CEO)を務めたライアン・サラメ氏は2036万ドルをすべて共和党系の団体あてに献金。FTXのエンジニアリング部門を統括していたニシャド・シン氏は789万ドルを民主党系の団体に献金した。
バンクマン・フリード被告らによる政治献金は、米国における仮想通貨に対する規制議論に影響を与えた可能性がある。FTX破綻前には上院農業委員会の与野党の議員が、米商品先物取引委員会(CFTC)の監督権限を強める「デジタル商品消費者保護法案」を提案していた。バンクマン・フリード被告は同法案に賛同しており、FTX側の献金の一部が提案者の議員らに流れていた。
商品先物やオプション取引などを規制・監督するCFTCは、有価証券の取引に関する監督を担う米証券取引委員会(SEC)よりも人員が少ない。FTXは自社に都合の良い「緩い規制」に誘導しようとした可能性も指摘されている。
ニューヨーク州南部地区連邦地検の起訴状によると、バンクマン・フリード被告は他人名義で少なくとも2万5000ドルの政治献金をした疑いもある。同地検のウィリアムズ検事は13日、「FTX顧客の資金で賄われた汚い金が、超党派の影響力を買い(規制に関する)政策の方向性を左右したいという被告の欲望のために使われた」と指弾した。