Netflix、45カ国作品を2億人に イカゲーム世界的ヒット

【シリコンバレー=佐藤浩実】米ネットフリックスが契約者を増やしている。19日に発表した2021年7〜9月期決算で会員の純増数は440万人近くと、4~6月比で約3倍になった。けん引役は韓国ドラマ「イカゲーム」など、多国籍の作品群だ。2億人超のデータを分析し、45カ国で制作した作品に世界中から視聴者を呼び込む仕組みが整いつつある。
9月下旬、米カリフォルニア州に住むジェイソン・モリスさん(36歳)がネットフリックスをつけると「イカゲーム」の予告編が流れた。映像が気になり英語の吹き替えと字幕を付けて見始めると、とりこになった。「主人公たちが抱える悩みと懐かしい子どもの遊びの重ね合わせが天才的」。韓国ドラマは過去に数えるほどしか見ていなかったが、演出や俳優の演技に引き込まれた。
イカゲームは借金を抱えた主人公らが賞金と生き残りをかけて競うドラマ。作中に登場する「型抜き」などのゲームをSNS(交流サイト)に投稿する人も相次ぎ、「韓国ドラマに全く関心がなかった層も取り込んだ」(釜山大学のシーダーボ・セイジ准教授)。
19日にはイカゲームの視聴数が配信後4週間で1億4200万世帯に達したと公表した。2分以上見た人を「視聴者」と数えるため途中で見るのをやめた人も含むが、日本の人口を超える。

ネットフリックスはもともと各地域での会員獲得を進める狙いで非英語の作品制作をしていた。韓国にも16年に進出、アジアの会員が3000万人規模に育つのを支えてきた。しかしイカゲームは韓国や韓流ファンが多い日本にとどまらず、米国や欧州各国を含む94カ国・地域で視聴数の首位に立った。
世界的なヒットとなった理由の一つが制作体制だ。
イカゲームは韓国のチームが映像化を目指していたファン・ドンヒョク監督を2年前に発掘。韓国の放送局が「過激すぎる」と難色を示していたアイデアを、イ・ジョンジェさんやコン・ユさんなど演技派の人気俳優を起用してヒットにつながる環境を整えた。
もともとネットフリックスはインターネット配信企業として早期から中国を除くあらゆる市場を対象にしてきた。各地で受け入れられるコンテンツ作りが、分散型の制作体制につながった。非英語の作品が増えるにつれ単に現地向けのコンテンツというわけではなく、「世界のあらゆる場所から、未来の映画やテレビを担う新しいストーリーテラーを世に送り出せると考え始めた」(テッド・サランドス共同最高経営責任者=CEO)。
もう一つが世界中で視聴者を集めるノウハウだ。
世界の会員数は9月末時点で2億1356万人に達し、数十に及ぶ多言語の字幕や吹き替えに速やかに対応する体制もある。今回はこれまでの視聴傾向のデータを分析し、韓国ドラマを見たことがない人であっても、「イカゲーム」を薦めた。作品が話題になるにつれて、より幅広い会員に視聴を促した。
作品の制作や視聴者への推薦にデータを生かすのは、2013年に「ハウス・オブ・カード」を配信した頃から続くネットフリックスのお家芸だ。イカゲームのヒットは「優れたコンテンツと、人々がコンテンツを見つけるのを助ける配信システムの力を証明した」(サランドス共同CEO)格好だ。

イカゲーム以外でも、英国制作の「セックス・エデュケーション」やスペイン制作の「ペーパー・ハウス」がそれぞれ数千万規模の視聴者を獲得している。
ネットフリックスのコンテンツ制作予算は2021年だけで170億ドル(約1兆9500億円)にのぼる。日本の民放キー局5社や映画配給3社の合算と比べて4~5倍だ。潤沢な資金が世界での制作活動を可能にしており、22年には50カ国に広げる計画を掲げる。
韓国の制作者には「世界の視聴者をつかまなければ、産業の規模を維持できないという意識は強い」(釜山大学のセイジ准教授)。一方で日本は一定規模の国内市場があり、テレビ局を中心とした制作体制となっていることが、ネットフリックス発の世界作品がまだ少ない背景にある。
コンテンツに言語の壁がなくなり、ネットフリックスの多国籍コンテンツは一段と増えていく見通しだ。視聴者は簡単に多国籍の番組を身近に楽しめるようになった。日本発のヒットを生み出せなければ、日本の番組制作産業は衰退しかねない。
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