FRB議長、利上げ有無「決めてない」 市場との対話苦心

【ニューヨーク=斉藤雄太】米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は19日、10会合連続で引き上げた政策金利を巡って「追加の引き締めが適切か何の決定も下していない」と語った。過去1年ほどで計5%の利上げを進めたことを踏まえ「(経済)データや見通しの進展を慎重に評価する余裕がある」とも述べた。
米利上げ路線の行方は世界経済を左右するだけに注目度は高い。FRBは金融不安がくすぶることを踏まえ、6月の利上げ停止を視野に入れる。一方、インフレ圧力が強ければ追加利上げに動ける余地も残す。パウエル氏の発言からは物価抑制と金融安定の両立に向けて、市場との対話に苦心する様子がうかがえる。
FRBは6月13〜14日に次回の米連邦公開市場委員会(FOMC)を開く。最近のFOMC参加者の発言では、追加利上げに慎重な意見と必要性を示す意見が交錯する。次回会合前に公表される5月の雇用統計や消費者物価指数(CPI)への関心が高まり、パウエル氏もデータ重視の姿勢を改めて示した。
政策金利は2022年3月のFOMCから10会合連続で引き上げられ、5.0〜5.25%に達した。急速な引き締めは米地銀の破綻を招き、金融不安につながった。パウエル氏は銀行システムについて「全体として強靱(きょうじん)で、今後直面しうる課題に対処するための十分な態勢を整えている」と強調した。
FRBは物価抑制を優先してきたが、金融不安の広がりにも目配りしなければならない。パウエル氏は銀行が融資に慎重になることで「経済成長や雇用を圧迫し、物価の引き下げにつながりうる」と述べた。そのうえで「結果的に政策金利をそれほど上げる必要はないかもしれない」と指摘した。
FOMC参加者は年内の利下げ転換に総じて否定的だ。パウエル氏もこの日、「インフレ抑制に失敗すれば(人々の感じる)痛みが長引くだけでなく、最終的に物価の安定を取り戻すための社会的コストがより増えることになる」と訴えた。
金利先物市場では複数回の利下げ実施が織り込まれている。パウエル氏はこの点について、FRBの信認の問題というよりインフレがより早く沈静化するとの市場予想を反映した結果だと指摘した。「これまでのところ、データはインフレ抑制に時間がかかるというFOMCの見方を支持している」とも述べた。
バーナンキ氏「リーマン危機とは大きな違い」
パウエル氏はこの日、バーナンキ元FRB議長とのパネル討論会で発言した。バーナンキ氏は問題を抱えた銀行の融資の絞り込みが実体経済に影響を与える点で、今回の金融不安は過去の経済危機と似ていると指摘した。そのうえで、自身の議長時代に対処したリーマン危機とは大きな違いもあると説明した。
まずは金融機関に打撃を与えた保有資産の違いを挙げた。今回は急な金利上昇で「安全資産」とされる米国債などの価値が目減りしたが、リーマン危機時は信用力の低い個人向けのサブプライムローンや関連する金融商品が問題になった。
バーナンキ氏は、米国債のほうが価格の透明性が高く、景気悪化時にはむしろ投資家の買いが集まり債券価格が上がる(金利は下がる)と指摘した。景気悪化と資産の劣化の悪循環が起きにくいとの見立てだ。
リーマン危機や戦前の大恐慌と比べ「全体的な(家計や企業など資金の)借り手の状態ははるかに良い」(バーナンキ氏)とも述べた。これが銀行の財務や個人消費などの急速な悪化を防ぐ支えになるとの認識を示した。
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