「国境炭素税」米議会でも議論始まる 与党議員が法案
【ワシントン=鳳山太成】環境規制の緩い国からの輸入品に事実上の関税を課す「国境炭素税」の議論が欧州連合(EU)に続き、米議会でも本格的に始まった。バイデン政権がまとめる新たな経済政策に含む案が浮上する。脱炭素の政策で米国企業が不利にならないようにする狙いだが、制度設計など実現には課題も多い。
与党・民主党でバイデン大統領に近いクーンズ上院議員は19日、同党の下院議員と共同で、2024年1月から「国境炭素調整」を導入する法案を公表した。二酸化炭素(CO2)の排出規制が緩い国や地域から製品を輸入する際、製造時に排出したCO2に応じて関税を課す。
法案によると、まず鉄鋼やアルミニウム、セメント、天然ガス、石油、石炭といった製品を対象にする。米メディアによると、年最大160億ドルの税収増を見込む。現行の年間関税徴収額の2割に相当する。

バイデン米政権は温暖化ガスの排出を減らすため、環境規制を強化する方針だ。米国での生産コストが上がり、規制の緩い国の製品との競争で不利になりかねない。国境炭素税の導入で、米国企業が中国など他国へ生産拠点を移すのを防ぐ狙いがある。
国境炭素税は、バイデン政権と民主党が単独で可決を目指す3兆5000億ドル(約390兆円)の経済政策案に盛り込まれた。再生エネルギーの拡大など気候変動対策を押し進める半面、米国の産業や雇用を守る名目で浮上した。
実現のハードルは高い。今回の法案は、米国企業が米国の環境規制を守るために負担するコストから関税額を算出する。米国は全国レベルで排出量取引や炭素税を導入しておらず、透明性を確保したCO2への値付けが課題となる。
米シカゴ大のデビッド・ワイスバック教授は「規制コストを計算する手法がないため(国境炭素税の)実施は難しい」と指摘する。米国内には北東部と西部に地方単位の排出量取引制度があるが、連邦単位では実現の見通しが立っていない。
バイデン政権がどこまで導入にこだわるかも焦点だ。バイデン氏は選挙公約に盛り込み、米通商代表部(USTR)は21年3月の報告書で検討課題に挙げた。
貿易摩擦を引き起こすなどの懸念から、政権内には慎重な意見も根強い。世界貿易機関(WTO)のルールとどう整合させるかも大きな論点となる。
EUの欧州委員会は14日、国境炭素税を23年にも暫定的に導入する計画を発表した。世界各国が脱炭素に向けて動き出すなか、米欧の行方次第では対立の火種ともなる。
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