FacebookとApple、プライバシー巡り火花
【シリコンバレー=白石武志】プライバシーをめぐる米フェイスブックと米アップルの対立が先鋭化している。自社製品上での個人情報の収集を制限するアップルに対し、フェイスブックは広告収入の減少につながり、中小企業の利益を損なうと批判を強める。フェイスブックはアップルを訴えた米ゲーム開発会社を支援する方針も示すなど、両社が互いの急所を突く異例の展開となっている。
「我々はあらゆる場所で、中小企業のためにアップルに立ち向かっている」ーー。フェイスブックは16日付の米主要紙に、アップルを名指しで批判する意見広告を掲載した。消費者の関心に沿ったターゲティング広告を制限する同社の動きを「中小企業が消費者に効果的に接触するのを制限するものだ」と指摘。新型コロナウイルスの影響でオンライン販売に活路を求める企業に負担を強いる行為だと批判した。
アップルはプライバシーを「基本的人権」と位置づける。6月にはスマートフォン「iPhone」やタブレット端末「iPad」などにおける個人情報の収集を一段と制限する方針を表明。年明けからはフェイスブックなどの各アプリがターゲティング広告や広告効果の測定に使う端末識別子を入手する際、ダウンロード時に消費者の同意を得るよう義務付ける。
プライバシーに敏感な消費者が端末識別子の提供を拒めば、ターゲティング広告の精度が低下しかねない。特に無料アプリはフェイスブックにアプリ内の行動履歴などを提供し、消費者の関心に沿った広告を表示することで収益を得ている。アップルの措置が始動すれば、課金を始めるか、市場からの撤退を迫られると見込まれている。
フェイスブック幹部は16日付のブログ投稿の中で、広告収入減に見舞われた無料アプリが課金を始めれば、アプリの販売額に応じて手数料を徴収するアップルにとっては好都合になると指摘。「アップルはプライバシーを強化するという旗印を掲げつつ、実際には自社に利益をもたらすビジネスモデルに企業や開発者を追い込んでいる」との批判を展開した。
アップルは同日、自社のプライバシー保護の取り組みについて「利用者のために立ち上がるという単純な問題だと考えている」との声明を出し、フェイスブックの批判をかわした。「ターゲティング広告を作成するためのアプローチを変えるよう要求するものではない」とも述べ、「単に利用者に選択肢を与えることを求めているだけだ」と強調した。
対立はいまのところ、消費者保護を訴えるアップルの優勢に見えるが、フェイスブックはさらなる反撃に打って出る構えだ。米メディアは16日、アプリ配信や課金の仕組みが反競争的だとしてアップルを訴えた人気ゲーム「フォートナイト」の開発元である米エピック・ゲームズに対し、フェイスブックが証拠提出などで協力する考えを示したと報じた。
エピックはアップルがアプリ開発者から徴収する30%の手数料などを不服としており、他のアプリ開発者にも賛同を呼びかけている。対立軸は異なるものの、フェイスブックが「敵の敵は味方」とばかりにエピックを支援する方針を示したことで、今後、アップルへの包囲網が強まる可能性がある。
米独禁当局はIT(情報技術)大手に対する監視を強めており、10月以降、連邦政府や州政府は反トラスト法(独占禁止法)違反の疑いで米グーグルやフェイスブックを相手取った訴訟を立て続けに起こしている。12月16日には米南部テキサスなど10州の司法長官がネット広告市場の競争を妨げたとして、グーグルに対する訴えを起こした。
米議会などは自社製品上のアプリ配信サービスを独占するアップルに対しても、反トラスト法違反がないかどうかの調査を進めている。アップル経営陣が最も敏感になっている独禁問題にあえて首を突っ込み、打撃を加えようとするフェイスブックの「仁義なき戦い」は、両社の対立をさらにあおることになりそうだ。