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Adobe、Figma買収で若者開拓 2.8兆円割高指摘も

【シリコンバレー=佐藤浩実】米デザインソフトの老舗アドビが新興の同業をのみ込む。15日、デザインの共同編集ソフトを手がける米フィグマを200億ドル(2兆8700億円)で買収すると発表した。買収額が割高との見方もあり、アドビの株価は15日に17%近く下落した。新型コロナウイルス下のリモートワーク定着を追い風に成長したフィグマを取り込み、次世代の顧客をつかめるか。

「けさのニュースは見た?」。15日、新興クラウドサービス企業の経営者らが集まるイベント。登壇した米カウボーイ・ベンチャーズのアイリーン・リー氏は数時間前に流れたばかりの記事をスクリーンに映し出した。年間経常収益(ARR)が4億ドルのフィグマに、アドビが200億ドルを投じる――。仲間の一社の成功譚(たん)に、新型コロナ下の急成長の反動に直面している参加者らは色めき立った。

フィグマが提供するサービスは、ブラウザー上でアプリの画面などをデザインできる。「グーグルドキュメント」と同じように離れた場所にいる複数人が同時に作業でき、デザイナーやエンジニア、製品マネジャーなどが手を動かしながらデザインに関わる議論をしやすくなる。フィグマの顧客リストには、米エアビーアンドビーや米ネットフリックス、米ストライプなどが名を連ねる。

在宅勤務が追い風、「デカコーン」の評価

大学を中退したディラン・フィールド氏らが2012年に興したフィグマは当初、数あるクラウドサービスの一つだった。飛躍のきっかけになったのが新型コロナだ。

あらゆる仕事がリモートワークに移行した20年4月に米アンドリーセン・ホロウィッツなどから5000万ドルを調達し、ユニコーン企業に加わった。利用者の拡大とともに21年に再び資金調達をしたことで、直近の評価額は「デカコーン」の基準となる100億ドルに達している。従業員は約850人にのぼる。

フィグマの躍進をじっと見ていたのがデザインソフトの老舗、アドビだった。同社はパッケージソフトからサブスクリプション(継続課金型)サービスへの移行に成功した企業として知られるが、提供しているソフトの本質は以前と変わっていない。使い心地も含めて、プロのデザイナーの職人的な仕事を支えるものが多くを占める。

リモートワークの浸透とともにデザインの手法が変わるなかで、利用者はデザイナーもそれ以外の人も直感的に使えるフィグマに流れ始めていた。特に、アドビの持つ同種のソフト「XD」からフィグマへの乗り換えは顕著だった。アドビのデジタルメディア部門で社長を務めるデビッド・ワドワニ氏は「フィグマは何百万人もの新しい世代のデザイナーや開発者、学生の支持を集めている」と認める。

新世代のデザイナーや開発者が支持

そこで、アドビはフィグマを取り込むことに決めた。フィグマが確立したブラウザーベースのデザイン編集という強みを生かしつつ、アドビが持つ技術資産をそこで利用できるようにしていく構想だ。シャンタヌ・ナラヤン最高経営責任者(CEO)は15日に開いた投資家向けの説明会で「何十年も前からアドビが培ってきた画像や映像の技術をウェブに持ち込んで、恩恵を受ける人が劇的に増えるのを考えてみてほしい」と話した。

アドビはフィグマの現在の事業領域だけで、25年に165億ドルの市場規模が見込めるとそろばんを弾く。ただ、株式市場は素直に歓迎しなかった。最近のソフトウエア企業の価値評価と比べて、金額が高すぎるととらえたためだ。フィグマに投じる200億ドルは、フィグマが22年に得る収益のざっと50倍にあたる。

「フィグマの顧客からの採用の伸びは並外れている」(米ベッセマー・ベンチャー・パートナーズのサミア・ドラキア氏)などの評価が聞かれる一方、コロナ下のソフトウエアブームは過ぎており、高すぎる倍率との見方が広がった。米国みずほ証券のように「(将来の競合を防ぐ)防衛的な動機の買収だろう」との指摘も多い。

200億ドルの買収額は、米マイクロソフトによる米アクティビジョン・ブリザード買収(687億ドル)や米ブロードコムによる米ヴイエムウェア買収(610億ドル)などに次ぐ規模となる。アドビが発表した9~11月期の売り上げ予想が慎重だったこともあり、同社の株価は15日に前日比で17%近く下落した。

統合効果を早期に出せるかも課題となる。「フィグマの投資家にとっては良いが、消費者にとっては良いのか」。フィグマを利用しているスタートアップ企業の創業者は言う。買収によって料金体系が変わったり、ユーザーとの交流の仕方が変わったりする例は少なくない。かじ取りを誤れば、アドビが見込んでいた「新しい世代」はまた別のサービスに移っていく恐れもある。

アドビはフィグマのフィールドCEOが引き続き事業を率いると説明している。フィールド氏は共同作業を促す自社のサービスを通じて「『私のアイデア』が『私たちのアイデア』に変わるのを体験した」と言う。アドビによる買収でも実現できるかが問われる。

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