米銀、コロナ対応の引当金取り崩し JPモルガン最高益

【ニューヨーク=大島有美子】JPモルガン・チェース、シティグループ、ウェルズ・ファーゴの米大手3行は15日、2020年10~12月期決算を発表した。新型コロナウイルス禍で企業や個人の経済活動が制限されているにもかかわらず、JPモルガンは過去最高益を計上した。主因は融資先の破綻などに備える貸倒引当金の戻し入れだ。当初想定より経済は好転したが、21年も低金利とコロナ禍の不確実性に向き合うことになる。
JPモルガンの純利益は前年同期比42%増の121億ドル(約1兆2600億円)と四半期で最高益だった。ウェルズも4%増益だったが、シティは7%減益だった。
20年7~9月期と比べて大きく変わったのが貸倒引当金と貸倒損失を合わせた不良債権処理費用(信用コスト)だ。3社合計で4~6月期は278億ドル、7~9月期は35億ドルを計上し利益圧迫の要因となっていた。4~6月期はリーマン・ショック後の引当金に匹敵する水準だったが、10~12月期は一転、21億ドルの戻し入れとなった。

貸倒引当金を算出する前提となる経済の先行き見通しが改善したことが大きい。JPモルガンのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)はワクチンや経済対策で消費が喚起され「21年の夏ごろにはより強く、健全な経済に戻っている可能性がある」との認識を示した。
各社は民主党のバイデン次期政権の財政出動を織り込む。ウェルズのチャールズ・シャーフCEOは「追加の経済対策があれば、21年後半には堅調な経済になる可能性が高い」と指摘した。
シティは引当金計算の前提となる経済見通しで、米失業率を21年1~3月期の平均で7.3%と想定。前回予想(8.2%)に比べて0.9ポイント下げた。21年の実質GDP増減率はプラス3.7%で、前回予想より0.4ポイント改善した。マーク・メイソン最高財務責任者(CFO)は上方修正の理由について「20年12月に追加の経済対策が成立し、さらなる財政出動が検討されている」ことを挙げた。
JPモルガンは4四半期ぶりの増収増益で、収益基盤の強さが際立った。顧客向け事業部門の中で、消費者を除き、投資銀行・市場、法人融資、資産運用部門と全部門で増収だった。特に市場は株式などの手数料収入が増え20%増収だったほか、資産運用部門の収益も10%増えた。
ただコロナ禍で雇用が安定しないなか、消費者向けは苦戦も目立つ。JPモルガンの消費者部門は8%減収。過去最低水準の住宅ローン金利で消費者が借りやすくなり、住宅向け融資による収入は16%増えたが、カードローンは低調だった。シティは北米で11%、中南米とアジアを含む海外向けで16%、それぞれ消費者向け事業が減収だった。ウェルズも5%減収となった。
消費者向けは企業向けのような手数料収入が得にくく、貸し出しに伴う金利収入が柱だ。そのため、金利低下に伴う、貸出金利と預金金利の差(利ざや)の圧縮が逆風となった。ウェルズによると利ざやは10~12月期平均で2.13%となり、1年前と比べて0.4ポイント下がった。シティの利ざやも0.63ポイント悪化した。
コロナ禍で「守り」の姿勢を強める企業や個人が手元資金を確保し、預金を増やしている状況も続く。JPモルガンの12月末時点の預金残高は2兆1442億ドルに達し、19年末比で37%増えた。一方、貸出残高は2%増にとどまり、預金に対する貸出金の割合(預貸率)は47%と1年前(64%)と比べ大きく低下した。
米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は14日のセミナーで「必要になれば利上げするが、そのときはすぐに来ない」と述べ、今後数年はゼロ近辺の政策金利を据え置く方針を改めて示した。米銀は当面、利ざやが圧縮された環境と向き合うことになる。
口座不正問題で揺れたウェルズは今後、80億ドル以上の支出削減のために店舗閉鎖や人員削減に取り組む。20年に329店を閉鎖し、21年は250店を閉じる計画を発表した。
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