テスラが米で最大10%値上げ 素材高騰、悩むメーカー

【シリコンバレー=白石武志】米テスラが電気自動車(EV)全車種を米国で一斉値上げしたことが15日、明らかになった。値上げ幅は4~10%で、車種やグレードによって異なる。ロシアのウクライナ侵攻に伴う素材価格の高騰が耐久財である車の小売価格にも影響し始めた。
米メディアによると主力小型車「モデル3」の場合、最も値ごろなグレードの価格を4万4990ドル(約530万円)から4万6990ドルに4%引き上げた。小型SUV(多目的スポーツ車)「モデルY」の主力グレードは5%値上げして6万2990ドルとした。
テスラは先週に主力車種について1000ドル前後の値上げに踏み切ったばかりだった。ロイター通信によると同社は2021年に主力車種について十数回値上げを実施しているが、2週連続の大幅な値上げは珍しい。
イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は13日、ツイッターに「原材料と物流において重大なインフレ圧力に直面している」と投稿していた。値上げの理由についてテスラ側のコメントは得られていないが、米国内の幅広い物価上昇を受けた価格転嫁の動きとみられる。
テスラは中国でも主力車種の価格を2週連続で引き上げた。中国メディアによると、15日にモデル3とモデルYを約5%値上げした。10日に約5%の値上げに踏み切ったばかりだった。
テスラは日本でも車両価格を断続的に引き上げている。モデル3では3月2日と15日に計2度の値上げに踏み切り、車両価格を断続値上げ前の1日時点と比べて4~8%引き上げた。短期間で断続値上げするのは異例だ。
最低価格は519万円からと、従来に比べて40万円値上げしたほか、上級グレードは31万7000円引き上げ、749万円とした。テスラは2021年2月に上海工場から日本への車両輸出を始めたが、当時の最低価格は429万円だった。
ニッケル価格が急騰
EV業界では生産に必要な鉄やアルミ、パラジウムなどの価格上昇が深刻だ。特に車載電池にも使われるニッケルについては主要な産地であるロシアへの経済制裁によって供給不安が強まり、3月に入って価格が急騰。足元のニッケルの価格上昇だけでEVの製造コストが1000ドル増加するとの試算も出ている。
新興EVメーカーの米リヴィアン・オートモーティブは3月1日、コスト上昇を理由に予約済みの顧客を含めて一部車種の価格を20%前後引き上げると発表し、強い反発を招いた。直後に値上げは既存の予約客には影響しないと訂正したが、誤解を招く価格戦略で投資家を欺いたとして一部株主が集団訴訟を起こした。
テスラを追ってEVシフトを進めるゼネラル・モーターズ(GM)やフォード・モーターなどの米自動車大手も今後発売するEVについて野心的な低価格で予約客を募ってきた。様変わりするコスト構造をいかに小売価格に反映するかは各社共通の悩みとなっている。
車部品メーカーに契約解除の動き
インフレのしわ寄せは部品メーカーにも及ぶ。米法律事務所フォーリー&ラードナーのパートナー、アン・マリー・ウエッツ氏は最近、自動車大手との供給契約打ち切りを検討する車部品メーカーからの相談が増えたと明かす。
部品メーカー側から契約解除を打診するのは異例だが、「原材料や物流のコスト上昇によって他に選択肢がないサプライヤーもいる」(ウエッツ氏)。車部品の取引には足元のインフレが反映されにくく、数年前に提示された価格で供給し続ける余裕がない部品メーカーが多いためだ。
ロシア産原油の供給懸念から、米国では3月に入ってガソリン価格が約14年ぶりに史上最高値を更新した。過去の原油高の局面では燃費の高いハイブリッド車(HV)が普及しており、今回もガソリン高が米消費者のEV購入意欲を高めるとの期待がある。
一方で半導体をはじめとする部品不足が長引き、米国のEV市場では旺盛な需要に供給が追いついていない。テスラは新型車「サイバートラック」などについて納入開始時期の遅延を繰り返している。原材料や物流を含む幅広いインフレがもたらすサプライチェーン(供給網)の混乱は、EVブームに水を差すおそれもある。