IPEF、貿易円滑化協議 交渉官会合閉幕 来秋、成果狙う

【ワシントン=飛田臨太郎】日米豪など14カ国が参加する新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の初の交渉官会合が15日、オーストラリア東部ブリスベンで閉幕した。米政府が農業を中心に貿易分野で合意文書の素案を示し、域内で貿易を円滑にするための協議を進めた。
貿易、サプライチェーン(供給網)、クリーン経済、公正な経済の4分野について、それぞれ参加国が意見を交わした。関税以外の障壁として輸出入時の手続きの見直しのほか、サービスを取引する際の各国の規制などについて議論したとみられる。農業で気候変動に対応した生産技術の共同開発も目指す。
IPEFはバイデン米政権が主導し、9月に正式に交渉入りを決めた。米国は早期妥結を目標に掲げる。来年前半に閣僚級会合を開き、米国が議長を務める来秋のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で成果をアピールする段取りを描く。2024年の大統領選挙を前に成果を打ち出したい思惑がある。
成果を急ぐのは、米国が民主主義と権威主義の体制間競争と位置づける米中関係も背景にある。オバマ政権はアジア太平洋で中国に対抗する経済圏を作ろうと環太平洋経済連携協定(TPP)を構想したが、トランプ前政権が離脱した。中国は空白を突く形で21年9月に加盟申請した。
中国は東アジアの地域的な包括的経済連携(RCEP)にも参加し、巨額の資金力で東南アジア各国に秋波を送る。米国がアジア太平洋で影響力を保つ枠組みがなければ、アジア経済圏の重心が中国に傾く流れが強まる。
IPEFでは従来の貿易交渉で中心テーマとなってきた関税の撤廃・削減は扱わない。米国内に「自由貿易の推進が国内産業の衰退につながった」という保護主義的な世論があるためだ。
米国は北米生産の電気自動車(EV)を優遇する措置を導入し「自国優先」と同盟国から批判を浴びた。米通商代表部(USTR)代表を務めたカーラ・ヒルズ氏は米国の貿易政策について「政治が変わり、二極化が進んでしまったことが心配だ」と語る。
米中間選挙では多国間協力に消極的な共和党が連邦議会下院の多数派を奪取した。IPEF交渉が早期に妥結できるかは米国内の今後の内政状況も影響する。