米新興EV淘汰の波 過大な計画あだ、SPACブームに水

米国の電気自動車(EV)業界に淘汰の波が押し寄せはじめた。受注台数の水増し疑惑に揺れる米ローズタウン・モーターズは14日、創業者らが経営から退いたと発表した。誇大宣伝疑惑に見舞われた米ニコラに続く新興EV銘柄の失速は、合併を通じて各社に株式市場の資金を送り込んできた特別買収目的会社「SPAC」の上場ブームにも水を差す恐れがある。
米ゼネラル・モーターズ(GM)が2019年に閉鎖した米オハイオ州の工場を引き継ぎ、21年9月からピックアップトラック型EVの量産を計画していたローズタウンは14日、創業者で最高経営責任者(CEO)のスティーブ・バーンズ氏とフリオ・ロドリゲス最高財務責任者(CFO)がそろって辞任したと発表した。
受注件数の水増し疑惑などで量産を始めるための資金調達が難航し、6月8日には「継続企業の前提」に疑義が生じたと米証券取引委員会(SEC)に届け出ていた。20年10月にSPACとの合併で上場した同社の株価は14日、21年2月に付けた最高値から7割超安い9ドル26セントまで下げた。
取締役会は14日付の声明で9月の量産開始になお意欲を示したが、米メディアの反応は厳しい。米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は「デッドエンド(袋小路)」だと報じた。
米国の一般的な新規株式公開(IPO)では業績見通しを開示できないが、SPAC経由の上場では将来の具体的な数値目標を示すことが容認されている。この仕組みが量産前で「売上高ゼロ」の新興EVメーカーの株式公開を可能にした。
SPAC経由で上場を目指す企業は、具体的な業績見通しを通じて右肩上がりの成長ストーリーを投資家に示す。特に新興EVメーカーは個人マネーをひきつけるため、将来見通しを強気にみせがちだ。
たとえばローズタウンは生産開始から3年後の24年に最大10万7000台のEVを生産する計画を示すなど、EVの先駆者である米テスラを上回るペースでの成長戦略をアピールしていた。SPACとの合併を通じて6月末までの上場を計画する米ファラデー・フューチャーや米ルシード・モータースも、開示資料でEVの年間販売台数が今後4~5年で25万~30万台になるという強気の数値目標を示している。これはテスラが創業から約15年かけて達成した水準だ。
ローズタウンは今年1月時点で先行予約台数が10万台を超えたとしていたが、米投資会社のヒンデンブルグ・リサーチが「ほとんどは架空のものだ」と疑義を唱えたことで株価が下落。独立取締役らでつくる特別委員会が6月14日付でまとめた報告書では「予約注文に関する一部の記述の正確性に問題があった」と認めた。
20年には同じくヒンデンブルグの指摘によって、SPAC経由で上場したニコラが電動化技術に関する虚偽の説明で投資家を欺いていた疑いが浮上。疑惑の一部を認めて創業者が退任し、ニコラと資本提携を発表していたGMが後に計画を撤回する事態に発展した。

SECは投資家保護の観点でSPACの開示を見直す対象とした。SECのゲーリー・ゲンスラー委員長は5月下旬の声明で「規則やガイダンスの可能性について検討を指示した」と述べ、SPACとの合併を通じた上場にも何らかのルールを取り入れる考えを示した。
今年1月のバイデン米政権の発足も、新興EVには逆風となった側面がある。車の電動化による新たな雇用の創出を掲げた同政権に呼応し、GMはEV工場への投資や車載電池工場の建設計画を発表。電動化で後発とみられていた米フォード・モーターも25年までにEV関連に300億ドル(約3兆3000億円)を投資すると決めた。
EVシフトを鮮明にすることで自動車大手が株式市場の再評価を受ける一方、SPAC上場組の株価は低迷。20年6月の上場直後に時価総額でフォードを一時上回ったニコラや、20年末にSPAC経由で上場した米カヌーの足元の株価は軒並み最高値の半分以下の水準で低迷する。
さらにローズタウンの幹部辞任で新興EVメーカーの先行きへの不安心理が広がり、14日の米国市場では6月末までにルシードやファラデーとの合併を予定するSPACの株価も軒並み下げた。
新興EV各社の成長戦略や情報開示に今後さらに疑問符が付けば、量産を始めるための資金調達が難航する悪循環に陥りかねない。「第2のテスラ」を狙ったEV投資ブームは、新興IT(情報技術)企業の業績が市場の期待を下回ったことで崩壊した2000年前後の「ドットコム・バブル」に似た様相を示し始めた。(シリコンバレー=白石武志、ニューヨーク=宮本岳則)