FTX創業者を起訴 米当局「資金流用は意図的」
【ニューヨーク=竹内弘文】米検察当局は13日、経営破綻した暗号資産(仮想通貨)交換業大手FTXトレーディングの創業者サム・バンクマン・フリード被告を詐欺などの罪で起訴したと発表した。起訴状や当局の記者会見によると、同被告が2019年の設立当初から顧客資産を流用し、数十億ドル(数千億円)を詐取していた。FTX破綻は被害者が100万人を超える可能性がある経済事件に発展した。

米ニューヨーク州南部地区連邦地検がFTXの顧客や出資者に対する詐欺罪や詐欺の共謀罪など8つの罪で起訴した。13日に会見したダミアン・ウィリアムズ検事は、被告が保有する投資会社アラメダ・リサーチの経費にFTX顧客の資金を充当したと説明した。米メディアに「顧客資産の流用については知らなかった」と述べていた被告の説明を否定し、流用は意図的なものだったと強調した。
米証券取引委員会(SEC)や米商品先物取引委員会(CFTC)も同被告を提訴した。SECのゲーリー・ゲンスラー委員長は声明で「投資家には安全だとうそぶきながら、噓で固めた砂上の楼閣を作り上げた」と非難した。
罪状の発表に先立ち、米当局の要請でバハマ当局は12日にバンクマン・フリード被告を逮捕していた。同被告は13日にバハマ首都ナッソーの裁判所に出廷して保釈を申請したが、ブルームバーグ通信によるとバハマの判事が却下した。23年2月に米国への身柄引き渡しについての審問が開かれる。
13日に米下院の金融サービス委員会が開いた公聴会では、FTXのジョン・レイ最高経営責任者(CEO)が、FTXとアラメダは「一つの会社として運営されていた」と強調した。アラメダとFTXの間に直接の資本関係はないにもかかわらず、損失補塡などのため違法な資金移動が恒常的にあったことを示唆した。

レイ氏は、アラメダの投機失敗に伴いFTXの損失規模が70億ドルを超えて破綻に至ったとの見方を示した。ずさんな経営管理などを背景に、FTX経営破綻から1カ月あまり経過した今も財務状況の確認は難航している。レイ氏は全容把握までに「おそらく数カ月はかかる」との見通しを明らかにした。
顧客を含めて100万人を超す可能性がある債権者が弁済を受けるには、さらに長い期間がかかることになる。「FTXの債権者数の多さは、バーナード・マドフ事件を小さくみせるほどだ」。共和党のフレンチ・ヒル下院議員は、史上最大のネズミ講詐欺ともいわれるバーナード・マドフ受刑者(21年死去)が起こした事件を引き合いに出した。
公聴会に参加した議員からは、仮想通貨規制のあり方についての意見も相次いだ。FTX破綻前には、米上院の一部の与野党議員がCFTCによる仮想通貨業界への監督権限を強める法案を提出していた。ただ、米メディアの報道によると法案を提出した議員を含め与野党に幅広くバンクマン・フリード被告が政治献金していたことから、政策立案の過程に疑義が生じている。
ウィリアムズ検事は「FTX顧客の資金で賄われた汚い金が、超党派の影響力を買い(規制に関する)政策の方向性を左右したいという被告の欲望のために使われた」と指弾した。選挙資金に関する規制の違反も起訴内容に含めている。
仮想通貨業界の動揺は続いている。仮想通貨交換業のバイナンスは米東部時間13日未明(日本時間同日午後)、米ドルに連動するステーブルコイン「USDコイン(USDC)」の引き出しを一時的に制限した。USDCの引き出しが急増したためという。FTX破綻を受けて投資家が交換所に資産を預けることに慎重になっている可能性がある。引き出し制限は正午前に解除となった。