物言う株主、ディズニーに改革迫る 「魔法取り戻せ」

【シリコンバレー=佐藤浩実、ニューヨーク=竹内弘文】米著名アクティビスト(物言う株主)のネルソン・ペルツ氏が米ウォルト・ディズニーに経営改革を迫っている。12日、同社に対する委任状争奪戦(プロキシーファイト)を宣言。収益性と株価の回復につなげるため、数カ月内に開く株主総会でペルツ氏を取締役に起用するよう提案した。トップ交代による立て直しを急ぐディズニーにとり、新たな火種となる。
ペルツ氏が率いるトライアン・パートナーズが米証券取引委員会(SEC)に関連書類を提出し、ディズニーの利益水準の悪化や株価が8年ぶりの安値に落ち込んでいることを指摘した。世界的なブランドと規模があり知的財産(IP)を収益化しやすい企業にもかかわらず「最近の株価と業績は期待はずれ」といい、「魔法を取り戻す」と強調した。
業績停滞の要因として「規律のない支出」を挙げた。ディズニーは2019年に約8兆円を投じて21世紀フォックスを買収したほか、インターネット動画配信事業を育てるためにコンテンツ製作への投資を年を追って積み増してきた。インフレの影響もあるものの、販売管理費なども増加している。
米ネットフリックスなどの競合に対抗するうえで必要な投資と主張してきたが、売上高の拡大に対して費用の増加が上回る状況が続いている。ディズニーの売上高は22年9月期に827億ドル(約10兆6800億円)で3年前の19年9月期と比べて約2割増えた。同じ期間に費用は3割あまり膨らみ、調整後の1株利益(EPS)は約4割減った。22年9月期の動画配信事業の営業赤字は40億ドルで、21年9月期の16億ドルから大きく拡大した。
ペルツ氏が取締役に加わることで過剰な支出を見直し、「ディズニー+(プラス)」を中心とする動画配信事業の利益率を改善するという。12日に米経済番組CNBCに出演したペルツ氏は「Huluを(完全に)買収するか、配信事業から手を引かなければならない」と述べた。21世紀フォックス買収は「会社を傷つけた」とも指摘した。

22年11月のボブ・アイガー最高経営責任者(CEO)の電撃復帰で明らかになった後継者育成の失敗など、企業統治の問題も正すとしている。新型コロナウイルス禍の20年から停止している配当を25年までに復活させる考えも示した。ディズニー株の約0.5%を保有しているという。
トライアンは05年設立で、22年9月末時点の総投資規模は約38億ドルにのぼる。ゼネラル・エレクトリック(GE)やプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)など約30社に経営改革を迫った実績があり、ディズニーには22年夏から接触を図ってきた。
アイガー氏や他の経営幹部とも複数回にわたり議論したが、トライアン側の提案は受け入れられなかったという。ディズニーは11日にナイキの元CEOであるマーク・パーカー氏を会長に指名すると発表し、ペルツ氏なしで企業統治などの課題に取り組めるとの考えを強調した。

トライアンにとって、委任状争奪戦への発展は今回のディズニーが4件目となる。初のケースは06年の食品大手ハインツ(現クラフト・ハインツ)で、コスト削減や主要ブランドへの集中などを訴え、ペルツ氏を含む2人の取締役の選任を勝ち取った。
化学大手デュポンにはコスト削減や企業統治の強化を訴えたうえで取締役派遣を提案したが折り合えず、15年に委任状争奪戦に発展した。トライアンは敗れるものの、17年まで大株主として残り、ダウ・デュポンの発足を後押しした。ブランド戦略の転換を迫った17年のP&Gとの委任状争奪戦では投票結果の再集計を経て、ペルツ氏が僅差で取締役に選任された。
景気の減速感が強まるなかで、株価の低迷に直面する企業は少なくない。ペルツ氏のようなアクティビストが企業に経営改革を迫る例が増える可能性がある。
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