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米共和党と企業、蜜月に転機 少数派標的の投票制限で

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昨年の米大統領選でトランプ前大統領とともに苦杯をなめた共和党は「赤い州」の奪還をめざす=AP

【ニューヨーク=白岩ひおな】米南部ジョージア州で成立した有権者の投票権を制限する法律をめぐり、米国企業から批判の声が相次いでいる。黒人らマイノリティー(少数派)の投票を妨げるとされる法案は共和党の主導でほかの46州でも検討されている。消費者が人種差別への企業の対応に厳しい視線を注ぐ中、法人減税などを掲げたトランプ前政権下で蜜月による恩恵を享受した企業と共和党との関係に転機が訪れつつある。

ジョージア州の法律は3月下旬、州議会で多数派を占める共和党が主導して可決し成立した。郵便投票の用紙請求時の身分証明を厳しくするほか、期日前投票の期間を短縮し、投票箱も減らす。投開票での州議会の指揮・監督権も強める。

共和党は不正投票を防ぐために必要だと主張する。一方、民主党は不正を示す証拠はなく、遠方の市民や身分証を持たない割合が大きい黒人の投票を妨げると非難している。

これに対し、100人超の企業経営者が10日にビデオ会議の「Zoom(ズーム)」を用いて対応を協議した。米製薬大手メルクのケネス・フレージャー最高経営責任者(CEO)とアメリカン・エキスプレスのケネス・シュノールト前CEOは「差別的な法律と戦い続けることが重要だ」と呼びかけた。3月30日には両者が主導し、70超の黒人経営者が法案への反対と企業の行動を呼びかける公開書簡に署名した。

米メディアによると、会議に出席したのはデルタ航空、アメリカン、ユナイテッドといった大手航空会社やスターバックス、ディスカウントストア大手ターゲットなど名だたる企業ばかりだ。法案を支持する政治家への寄付中止や可決した州への投資延期など、反対を示す方法を話し合った。新たな声明を近く公表する予定で、ペイパル・ホールディングスなどがすでに署名に合意した。ダン・シュルマンCEOは「投票への平等なアクセスを支持する」と表明した。

3月下旬にはアトランタに拠点を置き、従業員に多くのアフリカ系米国人を抱えるデルタ航空のエド・バスティアンCEOやコカ・コーラのジェームズ・クインシーCEOが個別に反対する声明を出した。JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOも「従業員が投票することを妨げるような取り組みには反対する」とコメントした。

2020年5月には警察官による黒人男性ジョージ・フロイドさんの暴行死事件をきっかけに「ブラック・ライブズ・マター(BLM=黒人の命は大切だ)」運動が広がった。人種平等や公平性を重視する消費者を意識し、企業も差別への反対や黒人の地位向上に向けた取り組みを掲げるなど対応を迫られた。こうした構図は投票制限の問題にも共通する。根底には、傍観すれば経営リスクになりかねないとの危機感がある。

他州では法案に先手を打つ動きも出てきた。ゼネラル・モーターズ(GM)やフォード・モーターなどミシガン州に拠点を置く37社は13日の共同声明で「歴史的に権利を奪われてきたコミュニティーの選挙への参加率を低下させる行動は避けるべきだ」と求めた。同州では民主党のホイットマー知事が法案に拒否権を行使する考えだが、可決をめざす共和党側は賛同者の署名を集めて知事権限を抑え込もうとしている。

10日の会議に参加したミシガン大学のマーク・ミズルッチ教授(社会学)は「企業は黙っていれば、人々からボイコットを含む非常に大きな圧力を受ける」とし、共和党からの反発とどちらが損害が大きいかが判断基準の一つになっているとみる。その上で「CEOの多くは米国の民主主義や人種をめぐる問題の将来を心配し、正しいことをしたいと考えている」と話す。

差別是正政策に詳しいハーバード大のフランク・ドビン教授は「殺人への非難は(党派を超えて)米国人の誰もが賛同するが、意見の分かれる投票制限は事情が異なる」とし、企業が共和党との摩擦を覚悟で踏み込んだ対応を取ったと解説する。「公の場で声明を出すことで顧客の一部が離れるリスクもある」とし、市政府や州議会に依存する企業が契約や税制上の優遇措置などを失う可能性があると指摘する。

声を上げる企業に共和党は反発を強める。共和党の上院トップ、マコネル院内総務は「米国企業のトップには『政治に口出しするな』と助言したい。深刻な結果をもたらすことになる」と警告を発した。共和党は税制面の優遇措置や規制緩和を通じて企業との良好な関係を保ってきたが、党の盛衰を左右する選挙関連法制での干渉を認めるわけにはいかない。

共和党には報復論もくすぶる。「共和党員や保守派は反撃するときだ」。トランプ前大統領はコカ・コーラやデルタなど具体的な企業名をあげ、製品やサービスの購入を控えるよう声明で訴えている。

地盤奪回へ環境整備、24年大統領選にらむ


共和党がマイノリティーを標的にした投票制限に動くのは、24年大統領選をにらみ自らに有利な環境整備を進める狙いがある。とりわけトランプ前大統領の再選を阻む一因となった伝統的には共和党が強い「赤い州」の奪還を視野に入れる。

トランプ氏は先の大統領選でジョージア州を落とした。共和党候補が大統領選で敗れたのは1992年以来初めてだ。共和党は黒人らマイノリティーの有権者が民主党のバイデン大統領の支持に回ったのが一因と判断し、法制定の動きを加速する。

「共和党は大統領選で勝利するためには、投票をより難しくするのが近道と考えている」。投票権保護に取り組む支援団体の代表を務めるショーン・エルドリッジ氏は類似の動きが広がる事態に懸念をあらわにする。

米シンクタンクのブレナン・センターの集計によると、3月下旬までに47州で投票権の制限条項のある法案が計361も提出されている。このなかには南部テキサス、西部アリゾナ両州も含まれる。

いずれも伝統的に共和党が地盤としてきたが、近年はリベラルな若者の移住など人口構成の変化によって民主党が力を増している。2020年大統領選でトランプ氏はテキサスを死守したが、アリゾナでは共和党候補としては24年ぶりとなる敗北を喫した。

「投票規制の強化は米国の民主主義に対する脅威だ」(民主党の上院トップ、シューマー院内総務)。民主党は共和党に対抗するため、投票権の保護をめざす新たな連邦法の制定に乗り出した。24年をにらんだ攻防が早くも熱を帯びている。(ワシントン=永沢毅)

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