メタ、新VR端末で法人狙う 社名変更1年も難路続く

【シリコンバレー=奥平和行】米メタが社名変更から間もなく1年の節目を迎える。11日には仮想現実(VR)端末の上位機種を発表し、メタバースと呼ぶ仮想空間で個人に続いて法人の需要を取り込む姿勢を鮮明にした。ただ、メタバース事業は赤字が続き、頼みの綱であるインターネット広告事業が変調を来すなど逆風は強まるばかりだ。
「毎年、仕事のためにパソコンを購入している2億人がメタバースで働くようにしたい」。11日にメタがオンラインで開いた開発者会議の席上、マーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は同じセリフを繰り返し、強調した。
目玉に据えたVR端末の上位機種「Meta Quest Pro」は米国や日本などで25日に発売する。レンズの構造を見直してディスプレーを薄くしたほか、カメラで捉えた利用者の表情などを反映させることでアバター(分身)の表現力を高める。最低価格は1499ドル(約21万9000円、日本は22万6800円)に設定した。

メタ(当時はフェイスブック)は2020年に「Quest 2」を発売し、最低価格を299ドル(現在は399ドル)に設定することでVR端末の普及につなげた実績がある。ただ、この価格帯ではディスプレーの厚さなどVR機器の課題を解決することが難しく、上位機種を品ぞろえに加えることにした。
今後は上位機種と普及価格帯の製品を二本柱に据え、上位機種を技術の「ふ化器」にするとともに、法人向けのサブスクリプション(定額課金)サービスを始めるなど安定収益源に育てたい考えだ。開発者会議では米アドビや米マイクロソフトなどと協力し、製品設計やビデオ会議といった用途で法人に売り込んでいく方針を示した。
香港の調査会社、カウンターポイントリサーチによると、メタは22年4~6月期にVR端末を主体とするクロスリアリティー(XR)端末の世界市場で66%のシェアを獲得した。Quest 2がけん引役となり20年10~12月以降は65%超のシェアを確保し、2位以下に大差をつけている。

業績は苦戦が続く。メタバース事業の売上高は22年4~6月期に前年同期比48%増の4億5200万ドルに増える一方、営業赤字は前年同期の24億3200万ドルから28億600万ドルに拡大した。SNS(交流サイト)からメタバースに事業の軸足を移す方針を示して1年になるが、先行投資がかさむ状況が続く。
同社はネット広告事業で米グーグルに次ぐシェアを確保し、この利益をメタバース関連に回す青写真を描いていた。ただ、米アップルのプライバシー保護強化が逆風になり、中国発の動画アプリ、TikTok(ティックトック)との競争も激しくなっている。さらに、景気の減速傾向が強まり、22年4~6月期は上場以来初の減収になった。
メタバース事業にも新たな逆風が吹き付けている。「自力で競争できたのに、(競合を)買うことを選んだ」。米国の反トラスト法(独占禁止法)の執行機関のひとつである米連邦取引委員会(FTC)は7月、メタによるVRソフト開発会社、米ウィジンの買収を差し止める訴えを起こした。

ソニーグループや米マイクロソフトなどの家庭用ゲーム機を手がけるメーカーは傘下にソフト開発会社を抱え、外部のソフト開発会社と競わせている。メタもこうした例にならい社名変更直後の21年10月にウィジンの買収を決めたが、巨大IT(情報技術)企業の独占・寡占を警戒するFTCが待ったをかけた。
IT業界には、ある分野で頂点を極めた大手企業が別の領域に事業の軸足を移すのは困難との経験則がある。マイクロソフトはパソコンからクラウドコンピューティングへの移行に時間を要した。メタほどの規模の企業が業態転換で成功した例は少なく、ある幹部は「壮大な実験」と語る。賭けが吉と出るか凶と出るか、先行きはまだ見通せない。

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