SEC、株式取引ルール改革案 個人の注文条件改善狙う

【ニューヨーク=竹内弘文】米証券取引委員会(SEC)は14日、株式取引ルールの改革案を公表した。個人投資家の注文をより有利な価格で執行できるよう、取引慣行を改めて競争を促す規則案などを盛り込んだ。個人投資家に年間15億ドル(約2000億円)の恩恵があるという。2023年3月末までのパブリックコメントを経て最終案にまとめる。
個人投資家の注文を受けた証券会社は、シタデル・セキュリティーズやバーチュ・フィナンシャルなど電子トレーディングに強みを持つマーケットメーカー(値付け業者)に注文を回送するケースが多い。SECによると、個人投資家の注文の9割以上が少数のマーケットメーカーに回送されているという。
SECのゲンスラー委員長は声明で「一般の個人投資家は、さまざまな市場参加者が競い合う恩恵を十分に受けていない」と指摘した。今回提示した規則案では、証券会社が小口の注文を回送する際、原則的に個別の注文ごとにオークションにかけることを証券会社に義務付ける。複数のマーケットメーカーや機関投資家を競わせてより良い売買条件を引き出す狙いだ。

注文の回送を巡っては、証券会社とマーケットメーカーの間の取引慣行が焦点になっていた。マーケットメーカーは個人投資家の売り注文と買い注文を付け合わせて稼ぐ機会を増やすべく、「ペイメント・フォー・オーダーフロー(PFOF)」と呼ばれるリベートを証券会社に払い、売買注文を集める。
PFOFはロビンフッド・マーケッツなどのネット証券が売買手数料を無料にする原資になる一方、ゲンスラー委員長は証券会社がリベートを優先して個人投資家の利益を損ねている可能性を指摘してきた。21年初めに起きた米ゲーム小売店ゲームストップ株の急騰など、個人投資家による株取引の「ゲーム化」をPFOFが助長しているとの議論もあった。
SECはPFOFの全面禁止も一時模索したとされるが、ネット証券などからの猛反発を受けて方針を転換。代わりに個人投資家の注文条件の改善につながりうる今回の施策を打ち出した。ただ、今回の規制案でもマーケットメーカーの利益は減るため、反発の声は強そうだ。
顧客の利益に沿って売買執行する義務も証券会社に課す。証券会社は現在、自主規制機関のルールに基づき、原則として全米最良気配より顧客側に不利な価格で売買を執行してはならないことになっている。SECとしても同様のルールを規定することで実効性を高める。
注文時の株価の刻み「呼び値」に関する規則案も示した。現在は株価が1ドル以上の銘柄について呼び値の単位を1セント(0.01ドル)以上とすることを取引所に義務付けているが、流動性が高い銘柄については1セント未満も認める。呼び値の単位縮小で先行する取引所外取引との競争条件をそろえる狙いだ。
経営陣の自社株取引に関わるルールも見直す。株式売却や新株予約権の行使がインサイダー取引に該当しないよう、取締役や執行役員があらかじめ取引計画を立てた際には企業に開示を義務付ける。