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Amazon、苦肉のトップ交代 米議会は追及姿勢緩めず

米アマゾン・ドット・コムのトップ交代が波紋を広げている。反トラスト法(独占禁止法)をめぐって同社を追及していた米連邦議会の議員らは、影響力を保ったまま表舞台から姿を消そうとするジェフ・ベゾス最高経営責任者(CEO)への不信感を隠さない。説明責任を回避する姿勢が目立つようなら、より強い反発を招くおそれもある。

「ベゾス氏とはあまり目を合わせたことはないが、次期CEOのアンディ・ジャシー氏にお会いするのを楽しみにしている」ーー。アマゾンが本社を置く米西部ワシントン州選出のジャヤパル下院議員(民主党)は同社のCEO交代に対する声明の中で、表に出る機会の少なかったベゾス氏を痛烈に皮肉った。

両者は2020年7月、米下院司法委員会が米IT大手4社のトップを招いて開いた反トラスト法に関するオンライン公聴会で対峙した因縁の間柄だ。アマゾンのネット通販サイトに出品する外部事業者の販売データを不正に利用しているのではないかと問い詰めるジャヤパル議員に対し、質疑応答に不慣れなベゾス氏は「違反がなかったと保証することはできない」と防戦に終始した。

議員からの矢のような質問攻勢に言葉を詰まらせ、消音ボタンの解除操作にさえまごついたベゾス氏の意外な姿を、米メディアは「世界一の大富豪が議会でグリル(尋問)された」とこぞって報じた。ベゾス氏にとって初めての公聴会への出席が、不本意な体験となったのは想像に難くない。その後、同氏がCEO退任を発表するまで公の場に姿を見せることはほとんどなかった。

CEO職を引き継ぐジャシー氏は米名門ハーバード大学で経営学修士号(MBA)を取得後、創業4年目だったアマゾンに初の新卒社員として1997年に入社した。ベゾス氏の"かばん持ち"として様々な会議や交渉の場に立ち会い、経営哲学をじかに学んだ。同社の営業利益の6割を稼ぐクラウド部門の設立をベゾス氏に提案した実質的な創業メンバーでもある。

ベゾス氏は16年に組織を小売部門とクラウド部門の2つに分け、それぞれにCEO職を置いて業績を競わせることで後継育成に布石を打っていた。小売部門トップだったジェフ・ウィルケ氏は20年に退任を表明しており、クラウド部門を率いるジャシー氏のCEO昇格は社内でも順当な人事と受け止められている。

ベゾス氏とは対照的に、ジャシー氏は自社のイベントに登壇するほか、メディアのインタビューにも定期的に応じてきた。寡占への懸念がアマゾンの解体論につながるのではないかという質問にも、市場シェアなどの具体的な数字を示しながら反論する対話力を備える。今後の議会対応にはうってつけの人材というわけだ。

ベゾス氏は9月までに取締役執行会長に退くことになるが、アマゾン社内で「一方通行のドア」と呼ばれる後戻りが難しいM&A(合併・買収)などの重要な決定には関与し続けるという。ブライアン・オルサブスキー最高財務責任者(CFO)は今回のトップ人事について、より重要な問題に「ジェフ(・ベゾス氏)の時間を集中させるためのもの」と説明する。

逆風が吹き続ける中で権限委譲を決めたベゾス氏の境遇は、米司法省との独禁訴訟の最中だった2000年に米マイクロソフトCEOを退任した共同創業者のビル・ゲイツ氏に似る。バトンを引き継いだスティーブ・バルマー氏は社内で力を持ちすぎた「ウィンドウズ」部門の改革にてこずり、98年に創業した米グーグルに検索エンジンやモバイル端末の市場で躍進を許した。

そのグーグルを共同創業したラリー・ペイジ氏も19年12月、持ち株会社であるアルファベットCEOの座を降りた。空飛ぶクルマなどに関心を寄せるペイジ氏は近年はアルファベットの株主総会の会場にさえ姿を見せておらず、18年9月には米上院情報委員会が開いた公聴会を欠席して議員らの批判を浴びた。

経営の一線から退いたとしても、IT大手の創業者らが自社の大株主であり続けることに変わりはない。アマゾン株の10%強を保有するベゾス氏は世間の雑音を避けて宇宙開発や環境・教育分野の慈善活動などに軸足を移す考えとみられるが、ジャヤパル議員は「今後もアマゾンの将来に多大な影響力を持つことは分かっている」とくぎを刺す。

20年7月の公聴会でアマゾンに販売データを不正利用されたと主張する取引先の声を代弁したバック下院議員(共和党)はトップ交代の一報を受け、すかさずツイッターに「ジャシーさん、いくつか質問があります」と書き込んだ。IT大手の寡占に対する警戒感は、今や党派を超えて広がる。ベゾス氏がCEOを退いても、追及の手が緩む気配はない。(シリコンバレー=白石武志、奥平和行)

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