米情報長官「プーチン氏長期戦準備」、東部制圧でも継続
NATO介入なら核使用のおそれ

【ワシントン=坂口幸裕、フランクフルト=林英樹】米情報機関トップのヘインズ国家情報長官は10日、ロシアのプーチン大統領が長期にわたってウクライナを侵攻する準備をしているとの分析を明らかにした。戦力を集中している東部地域を制圧しても戦闘を継続するとみている。
同日の上院軍事委員会の公聴会で「プーチン氏は紛争を長期化させる準備をしており、(東部)ドンバス地方(の制圧)を超えて目標を達成するつもりだ」と表明した。「(東部に戦力を)集中させたのは主導権を取り戻すための一時的なシフトにすぎない」と語った。
国防総省高官は10日、ウクライナ東部や南部でのロシア軍の侵攻について「2週間以上遅れている。どう展開しようとしているのか明確でない」と述べた。ロシアが3月中旬に初めて発射した極超音速ミサイルをすでに10~12回使ったとの見解も示した。
プーチン氏は核使用も辞さない構えをみせ、米欧にウクライナへの武器支援停止を迫っている。ヘインズ氏は「北大西洋条約機構(NATO)が事実上介入し、ウクライナでの戦争に敗北しそうな一因になっていると認識すれば、核を使用する可能性がある」と明言した。
ロシアが劣勢にあると判断すれば戒厳令を発動し、軍事行動をエスカレートさせるおそれがあるとも強調。一方で「プーチン氏による核兵器使用の可能性は差し迫っている状況にはない」とした。
ウクライナ軍はロシア軍に制圧されていた北東部ハリコフ周辺で反撃を続け、一部の集落をロシア軍から奪還するなど抵抗を強めている。ゼレンスキー大統領は11日「ハリコフからロシア軍を追い出した」と語った。
米欧は地上戦拡大に備えたウクライナの防衛態勢を強化するため、重武装できる軍事支援に乗り出している。ヘインズ氏は「これから数週間は西側諸国によるウクライナへの軍事支援拡大を阻止するため、核に言及し続けるとみられる」と説明。停戦協議については「少なくとも短期的には実行可能な交渉の道筋は見えない」と明言した。
ウクライナ南部のオデッサや隣国モルドバの親ロシア派が実効支配する都市など黒海沿岸への支配地域の拡大をめざしているとも訴えた。海上輸送路の封鎖でウクライナ経済に打撃を与える狙いがあるとみられる。「これから1〜2カ月間の戦闘はロシアが反転攻勢をめざすうえで重要な意味を持つ」と話した。
足元ではロシア軍はオデッサ南西部のスネーク島への攻勢を強めている。英国防省は11日、ツイートで「ロシアが戦略的防空ミサイルなどでスネーク島を掌握すれば、黒海北西部を支配することになる」と警鐘を鳴らした。
一方、ウクライナのエネルギー事業者はロシアから欧州へ天然ガスを供給するパイプライン2本のうち1本を停止したと明らかにした。ロシアが独立を主張する東部ルガンスク州にあるガス圧縮設備を稼働できなくなったのが原因だ。
ウクライナ経由で欧州に送る天然ガスの3分の1が影響を受けるが、他のパイプラインの接続ポイントにつなぎ直すことで今後も供給は可能だという。欧州連合(EU)がロシアから輸入する天然ガス全体のうち4分の1がウクライナを経由している。
ロシア国営ガスプロムは11日、EU向け天然ガス供給量が約7200万立方メートルで、10日より25%減ったと発表した。ドイツ経済・エネルギー省は同日「状況を監視しており、ドイツへの天然ガス供給は現在のところ問題ない」とコメントしている。
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