米・ブラジル、民主主義擁護で一致 ウクライナ支援は溝

【ワシントン=宮本英威、坂口幸裕】バイデン米大統領とブラジルのルラ大統領は10日、米首都ワシントンのホワイトハウスで会談した。両国はともに前大統領の支持者による議会襲撃事件を経験しており、民主主義体制の擁護で一致した。一方、ルラ氏はウクライナへの武器供与を否定するなど、支援を巡っては距離が目立った。
バイデン氏は首脳会談の冒頭で「最近、両国の強力な民主主義が試されている」と指摘し、「政治的な暴力を拒否する」と強調した。ルラ氏は「米国や国際社会は民主主義や熱帯雨林アマゾンの保護でブラジルを信頼することが可能だ」と話した。

バイデン氏はこれまでブラジルの民主主義の動向に注意を払ってきた。2022年10月のブラジル大統領選で、ルラ氏がボルソナロ前大統領に得票率1.8ポイントの僅差で勝利すると、選挙日の翌日にルラ氏に電話で祝意を伝えた。
電子投票の仕組みに重ねて疑義を示していたボルソナロ氏はこの時点で敗北を認めていなかった。バイデン氏はブラジルの選挙が「自由で、公正で、信頼できる」と述べて、国際社会がルラ氏の勝利を承認する流れをつくった。
ボルソナロ氏の支持者が1月8日に首都ブラジリアで議会、大統領府、最高裁判所を襲撃した事件の後にもルラ氏に電話して、同国の民主主義への揺るぎない支持を伝えた。米国ではトランプ前大統領の支持者が21年1月6日に連邦議会議事堂襲撃事件をおこしており、危機感があったためだ。
バイデン氏は7日、連邦議会での一般教書演説で「米国の民主主義は不屈だ」と力を込めた。過去2年で「民主主義国家はより強くなり、独裁国家は弱体化した」との認識を示した。
米州でブラジルは米国に次ぐ人口規模の民主主義国だ。南半球を中心とする新興国・途上国を総称する「グローバルサウス」のなかでも重要な位置を占める。中国とロシアとの体制間競争に打ち勝つためには同盟・有志国の協力を深めることが欠かせない。
ルラ氏はロシアによるウクライナ侵攻に関し、10日放映の米CNNテレビのインタビューで「戦争に加わりたくない」と武器供与を否定した。両首脳はこの日の共同声明でロシアの行為は「はなはだしい国際法違反」との認識で一致したものの、具体的な支援を巡ってはすれ違いをみせた。

両首脳が連携を強化したいのは国内の政治情勢もある。両氏の所属政党である米民主党とブラジルの左派である労働者党(PT)は、次回の大統領選がある24年と26年に再び右派色の強い候補者と競う可能性がある。米共和党のトランプ氏と自由党(PL)のボルソナロ氏だ。
トランプ氏の側近だったスティーブ・バノン元首席戦略官とボルソナロ氏の三男であるエドゥアルド・ボルソナロ氏の交流は知られており、両国の右派勢力は連携している可能性がある。バノン氏らはブラジルで暴動に何らかの形で関与したとの見方もある。
ボルソナロ氏とトランプ氏は、両国の大統領選の選挙期間中に、互いの支持を明確に示していた。バイデン氏とルラ氏は国内の政敵に対峙するために、民主主義の強化や暴力行為の抑制を訴えることは重要になる。
ボルソナロ氏は現在、米フロリダ州に滞在している。ルラ氏は10日、ボルソナロ氏の米国からの退去を求めている米民主党のバーニー・サンダース上院議員やアレクサンドリア・オカシオコルテス下院議員とも会談した。
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