トランプ氏弾劾裁判開始、早期決着視野に 党派対立鮮明

【ワシントン=永沢毅】米議会上院で9日、トランプ前米大統領の2回目の弾劾裁判が始まった。共和党は大半の議員が裁判を「違憲」とみなし、造反は6人にとどまった。党派対立は根強く、トランプ氏の有罪の見込みは薄まる。民主党は議会審議の遅れを取り戻すため来週中の早期結審も視野に入れる。
裁判の冒頭、検察官役を務める民主党のラスキン下院議員は弾劾訴追の証拠として13分間のビデオ映像を流した。「トランプ前大統領は議会に向かうよう暴徒にけしかけた」。演説で支持者をあおったことが連邦議会の占拠事件につながったとする構成だった。
「これこそが重犯罪、軽罪だ。これで弾劾に値しなければ、弾劾に相当する罪はない」。ラスキン氏は映像を流した後、こう語気を強めた。合衆国憲法は大統領が「反逆罪、収賄罪またはその他の重犯罪や軽罪」を犯した場合は弾劾できると定める。
トランプ氏の弁護団は公職を退いた大統領を裁くのは違憲だと主張し、民主党を「将来の政敵としてトランプ氏と向き合いたくないだけだ」と断じた。上院は過半数の賛成で有罪になった人物から公職に就く資格を剝奪でき、この場合トランプ氏は再出馬できない。
共和党の多くの上院議員はトランプ氏擁護に回る公算が大きい。裁判の合憲性を巡る9日の採決では44人が「違憲」と投票し、民主党と並んで「合憲」とみなしたのは6人だけだった。最終評決でも同規模の上院議員が無罪の判断を下す可能性が大きい。有罪評決に必要な17人の造反にはほど遠い。
米CBSテレビの世論調査によると、共和党支持者の83%がトランプ氏を無罪だとみており、有罪と回答したのは17%だった。民主党支持者では90%が有罪だと答えた。共和党内でのトランプ氏の影響力はなお大きく、現時点で同氏とたもとを分かつのは得策ではないとの判断がある。

民主党は早期決着のシナリオを検討している。現時点で証人を招致する計画はなく、早ければ来週中に最終評決に移る可能性もある。弾劾裁判がバイデン氏の政権運営に打撃を与えかねないとみるためだ。
影響はすでにでている。大統領選の敗北を認めなかったトランプ氏からの政権移行の混乱のあおりで、15人の閣僚承認は政権発足から3週を迎える10日までに6人にとどまる。近年ではトランプ前政権とならんで最も遅いペースだ。オバマ政権は同時期に15閣僚のうち12人、ブッシュ政権(第43代)は14人全員、クリントン政権は14人のうち13人が就任していた。
上院の弾劾規則によると、裁判が始まった後は上院での法案や人事承認の審議は原則としてすべて停止となる。共和党が同意しなければ裁判が終わるまで追加の人事の承認はできない。政権発足まもないタイミングでの閣僚の空白は政策の遂行に大きな足かせとなる。
バイデン氏は1.9兆ドルにのぼる追加の新型コロナウイルス対策の早期成立をめざすが、裁判中はその審議も停滞する。「上院は立派に振る舞うだろうが、弾劾で言えるのはそれだけだ」。バイデン氏は9日、ホワイトハウスでコロナ対応と経済再生に集中する意向を記者団に示した。
バイデン氏は政策遂行のため議会審議が不要な大統領令を連発する。分断修復を掲げつつ共和党との議論を避けているとの批判もあり、党派対立は深まる一方だ。

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