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米大統領直轄チーム、対ロ機密を異例開示 侵攻抑止狙う

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【ワシントン=坂口幸裕】バイデン米政権はロシアによるウクライナ侵攻の兆候を示す情報を積極的に開示している。本来は機密扱いの情報でもロシアの動向をできるだけ公表することで同国内部をかく乱し、計画の再考による侵攻抑止を狙った。その戦略を練ったのはバイデン大統領の直轄で創設した専門家チームだった。

省庁横断でシナリオ検討

タイガーチーム(Tiger Team)――。米紙ワシントン・ポストによると、ホワイトハウスの国家安全保障会議に国防総省、国務省、エネルギー省、財務省など関係省庁の担当者を集めたのは2021年11月。ウクライナ国境でロシア軍が大幅に増強している動きを把握した直後だった。

ロシアを抑止するために検討してきたテーマは欧州などと協調した外交努力や経済制裁を含む圧力、米軍の展開、大使館の警備体制など幅広い。ウクライナへの限定的な武力行使から大規模な侵攻まで幅広いシナリオを想定し、侵攻から2週間後までの対応策をまとめた。

米情報機関のトップらが欧州にも出向いて速やかに報告した。起こりうる事態への対応策だけでなく、ロシアとの情報戦に対抗するため米情報機関などが得たロシアの動向をできるだけ開示していく方針もここで固まった。

「ロシアの情報機関が捏造(ねつぞう)したものだ」。米国務省のプライス報道官は2月初めにロシアがウクライナに再侵攻する口実をでっち上げるための動画をつくっているとの情報を入手したと明らかにした。

ウクライナ軍が国境を越えてロシアを攻撃し、民間人の死傷者が出ている映像を含み、ロシア語を話す弔問客を演じる俳優も登場するなどと内容を細かく説明した。米政府として機密扱いを解除した情報だとあえて言及し、動画はロシアが侵攻を正当化する偽装工作だと断じた。

8年前のクリミア侵攻が教訓

バイデン政権が情報発信を強化した背景にはロシアによるウクライナ領クリミア半島の併合を許した2014年の教訓がある。当時のオバマ政権は情報開示に消極的で、欧州の同盟国などにも情報を十分に伝えていなかったという。

オバマ政権の元高官は米紙ニューヨーク・タイムズに「知っている情報を世界に発信すれば、我々の利益になると思ったことが何度もあった」と振り返った。14年はロシアの偽装工作でウクライナ東部にいる親ロシア派の分離独立派をあおったのが一因になったとの見方もある。

元米中央情報局(CIA)のロシア分析官はポスト紙に、冷戦後の米国は中東などのテロ対策に軸足を移し、ロシアに関する情報収集の予算や人的資源の配分を減らし「クリミア侵攻時に準備できていなかった」と語った。

今回のロシアの動向を巡り、ロシア軍がウクライナ侵攻に最大17万5000人の兵力を集結させると予測した21年12月初めの米メディア報道も当初は機密扱いだったという。今年1月末には政府高官がロシアが隣国ベラルーシに3万人規模の軍を派遣したとただちに公表した。

ウクライナに侵攻すれば最大5万人の民間人が死傷し、500万人の難民が生まれる可能性があるとの試算などを米議会に説明したのもメディアに漏れるのが織り込み済みだったとみるのが自然だ。

米国の試みはロシアの警戒を招き、情報源の特定につながるリスクと背中合わせでもある。万が一、ロシアが侵攻すれば、軍を展開していない米国がウクライナの内情を把握するのが難しくなりかねない。現在は無人機でウクライナ上空や黒海を監視しているが、開戦後だと撃墜されるおそれが一気に高まる。

それでもタイガーチームを仕切るサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は11日の記者会見で「情報をできる限りすべて共有していく」と明言した。ブリンケン国務長官もロシアの手口を明らかにすれば侵攻回避につながると自信を示す。

米国はロシアがウクライナ国境周辺や隣国ベラルーシでいまも軍備増強を継続しており、ここ10日ほどは展開を加速しているとみる。20日に閉幕する北京冬季五輪の開催中を含めた侵攻に身構える米国とロシアの神経戦が続く。

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