米政権、アフリカで中国・ロシアに対抗 人権侵害に制裁

【ワシントン=中村亮】米国のバイデン政権は8日、サハラ砂漠以南のサブサハラアフリカ向けの包括戦略をまとめた。「最近の強権主義の流れを食い止める」と明記し、人権侵害に対して制裁措置を辞さない構えを強調した。一方で食料支援やインフラ整備を重視し、中国やロシアに対抗する方針も示した。
バイデン政権は12月中旬、米首都ワシントンでアフリカ各国との首脳会議を開く。包括戦略に基づき、首脳会議に向けてアフリカ向けの具体的な支援策を策定していく。ブリンケン米国務長官は現在、アフリカを歴訪中で、戦略の公表を通じてアフリカに関与する姿勢を鮮明にする。
バイデン政権は欧州やアジアとの同盟関係の再構築を優先し、対アフリカ政策は後手に回ってきた。それまでの米政権もアフリカへの外交は欧州や中東に比べて手薄だった。
戦略はアフリカについて人口の増加や貿易拡大に加え、国連での強い影響力に言及。「アフリカの貢献や指導力がなければ、この時代の決定的な課題に対処できない」と指摘した。
具体的な協力分野として気候変動や新型コロナウイルス、テロ対策を列挙した。「世界はアフリカの重要性を強く認識し、アフリカ諸国と政治・経済・安全保障分野で関与を拡大している」と強調した。
ロシアをめぐり「さらなるウクライナ侵攻や関連の人権侵害に対するアフリカの反対を妨げるために偽情報や(アフリカとの)安保・経済面の結びつきを利用している」と非難した。
ロシアのラブロフ外相は7月下旬、アフリカ諸国を歴訪して米欧主導の対ロシア制裁に加わらないよう促していた。ロシアはアフリカ諸国と軍事面での協力も深めている。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の兵器取引量の報告によると、アフリカ諸国による2017~21年の兵器輸入に占めるロシアの比率は44%で最も多く、米国の2倍超だった。
ロシアは民兵組織を通じてアフリカ諸国の内政への影響力を広げている。米政府高官は7日、記者団に対してロシアの民間軍事会社ワグナー・グループのアフリカでの活動に懸念を表明した。ワグナー・グループが人権を侵害し、ダイヤモンドや金の採掘などに関与して経済的利益をあげているとの見方を示した。
中国については「ルールに基づく国際秩序に挑戦する重要な活動の場としてアフリカ地域を位置づけている」と断じた。米国は中国がアフリカの腐敗度が高い政権が歓迎する透明性の低い経済支援を実施し、影響力を強めていると懸念する。
中国のアフリカでの軍事協力にも危機感を強めている。バイデン政権は中国がアフリカの赤道ギニアで軍事拠点を設けようとしていると警鐘を鳴らしてきた。赤道ギニアは米本土と同じ大西洋に面しており、米国の安保を揺るがしかねないと警戒する。
戦略では、バイデン政権は中国やロシアの浸透に対処するため、アフリカに広がる強権主義に対抗すると表明した。経済支援などの「前向きな恩恵」を与えるだけでなく「制裁を含む懲罰的措置」も使うと説明した。腐敗などを暴く調査ジャーナリズムを支援したり、民主主義の規範に基づく改革を後押ししたりするとも唱えた。
経済協力では関係国と連携して食料不安に対応し、食料生産の拡大を支援していくとした。ロシアによるウクライナ侵攻で食料価格が上がり、アフリカの政情不安を招くとの懸念に対処する。インフラ整備を重点項目にあげて、気候変動対策も強化する。
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