米、子どもの予防接種率低下に懸念 「はしか」流行も

【ニューヨーク=山内菜穂子】米国で子どもの定期の予防接種率の低下傾向に懸念が出ている。中西部オハイオ州では非常に感染力が強い麻疹(はしか)が広がり、ワクチン未接種の子ども60人超が感染した。新型コロナウイルス禍による接種の遅れのほか、同ワクチンの接種義務の賛否が政治的な争点となった影響も指摘されている。
麻疹は感染力が非常に強く、感染すると脳炎など重篤な症状を引き起こすことがある。米疾病対策センター(CDC)によると、麻疹と風疹、おたふく風邪を防ぐ3種混合ワクチン(MMRワクチン)は2回接種すると麻疹の感染予防に97%の効果がある。
オハイオ州コロンバス市は9日、11月から64人が麻疹に感染し、25人が入院したと発表した。1~5歳が感染者の70%を占め、最も割合が多いのは1~2歳だ。感染者のうち61人は未接種で、3人は1回のみ接種していた。
CDCによると、オハイオ州でのMMRワクチンの幼児への接種率は2020年秋からの1年間で89.6%。その前の年の同期間に比べて2.8ポイント低下していた。全米では93.9%だった。
全米の22年の麻疹感染者は8日現在、88人にのぼる。CDCのワレンスキー所長は「接種率が低下している地域で麻疹などの感染が再び広がってきた」と危機感を示している。
根絶したとみられていたポリオウイルスへの警戒も再び高まっている。主に乳幼児が感染し、まひが残ることがある。東部ニューヨーク州で今夏、ワクチン未接種者への感染が確認された。その後、ニューヨーク市内の下水でもウイルスが検出された。CDCは11月、ワクチン接種率の低い地域を対象に全米で排水の監視を拡大すると発表した。
一部の州では子どもの予防接種率の低下傾向が目立っている。南部フロリダ州によると、21年秋からの1年間の5歳児の定期の予防接種率は91.7%と過去10年で最も低かった。州が目標とする接種率95%を達成または上回ったのは67郡のうち3割弱にとどまった。
コロナ禍では医療機関の受診控えが起こり、子どもの定期の予防接種への遅れが出ていた。さらに米国ではコロナワクチン接種の義務づけをめぐって激しい対立が起こった経緯がある。
幅広い接種の義務化を打ち出した民主党・バイデン政権に対し、個人の自由を制限するとして共和党が猛反発。共和党が優勢の多くの州で同ワクチンの接種義務づけを禁止する法律が成立した。各地で反ワクチンの活動も活発になった。
接種の遅れは世界的な課題でもある。世界保健機関(WHO)とCDCは11月、21年に過去最高となる約4000万人の子どもが麻疹ワクチンの接種を受けることができなかったと発表した。「コロナ禍により、何百万人もの子どもたちが感染のリスクにさらされている」と警告した。

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