ワクチンパスポート、米国で是非二分 アラバマなど禁止
【ニューヨーク=山内菜穂子】新型コロナウイルスのワクチン接種歴を証明する「ワクチンパスポート」の是非をめぐる議論が米国内で再燃している。南部アラバマ州などは5月下旬、州の機関などが証明書を発行することを禁じた。ワクチンの接種が進む一方、接種が任意である点を理由に賛否が分かれている。
「ワクチンパスポートがあれば、再び日常生活を楽しむことができる」。東部ニューヨーク州のクオモ知事は2日の記者会見で、その有効性を強調した。接種歴などを示す同州のスマホアプリ「エクセルシオール・パス」は3月に運用を開始した。すでに100万を超えるパスが発行された。
6月11日からは大リーグ、メッツの本拠地シティ・フィールドでの試合で、座席の9割を接種済みの人に割り当てる。未接種者用の席では隣の客との間隔を開けるなど対策をとる必要がある。
ハワイ州も5月中旬から接種済みの人が州のオンラインプログラムに登録すれば自由に離島間を移動できるようにした。これまでは事前の検査や10日間の隔離が必要だった。
一方で、ワクチンパスポートの導入を禁じる州も増えている。南部ジョージア州とアラバマ州は5月下旬、公的機関などが利用者に証明を要求することを禁止した。アラバマ州は企業が顧客に証明を求めることも禁じた。
ジョージア州のケンプ知事は「接種は個人的な決定だ」と述べた。州が保有する接種データも民間企業などに提供しないと語った。住民への接種は引き続き奨励する考えも示した。
ワクチンパスポートの導入には、社会や経済活動の正常化が一段と進むとの期待がある。その一方で、偽造の防止や個人情報の保護、差別につながる可能性といった課題も多い。
加えて米国内で議論になっているのが、コロナワクチンの接種が任意である点だ。連邦最高裁判決などにより、公衆衛生の観点から連邦政府や州はワクチン接種を求めることができるとされる。ただ、コロナワクチンは米食品医薬品局(FDA)の緊急使用許可の段階であり、接種は強制できないとの見方が根強い。
フロリダ州のデサンティス知事は、予防接種の証明を求めることは「個人の自由を減じる」と主張した。共和党が強い基盤を持つ州ではこのような懸念が強く、ワクチンパスポートは政治的な争点になっている。米メディアによると、少なくとも10州でワクチンパスポートを禁止、制限している。
経済活動の再開に期待する企業にはワクチンパスポートを禁止する動きに懸念が高まる。
例えば、フロリダ州の港からは多くのクルーズ船が出発する。米疾病対策センター(CDC)は大半の乗員と乗客が接種済みの場合、試験運航などがなくても再開できるとした。この夏に再開される多くのクルーズ船では接種の確認が必須となる見通しだが、フロリダ州内では違法となる可能性がある。

バイデン政権はワクチンパスポートについて静観する構えだ。サキ大統領報道官は「政府は国民に証明書の保有を義務付けるシステムを支持しない」と述べ、政府として主導的な役割を果たす考えはないことを明らかにしている。「プライバシーと権利は保護されるべきであり、システムによって人々が不当な扱いを受けることがないようにすべきだ」とも指摘した。

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