米軍、過去の中国偵察気球発見に遅れ 本土防衛に隙

【ワシントン=中村亮】米軍は6日、過去に米本土に飛来した中国の偵察気球を直ちに発見できなかったと明らかにした。中国やロシアとの大国間競争では米本土が攻撃対象になりうる。バイデン政権は探知能力を改善したと主張するが、中ロに隙を見せれば抑止力の低下につながりかねない。
「解決しなければいけない状況把握の空白がある」。米軍で北米地域のミサイル防衛を担当する北方軍のグレン・バンハーク司令官は6日、記者団に対して過去に中国の気球が飛来した時点で探知できていなかったと認めた。米軍高官が本土防衛の不備を認めるのは異例だ。情報機関が情報収集し、事後的に飛来を把握していた。
米国防総省高官は4日、これまでに中国の偵察気球がトランプ政権で少なくとも3回、バイデン政権初期に1回飛来していたと説明した。バンハーク氏はこれらの飛来を即時に発見できなかったと説明した。
4日に撃墜した中国の偵察気球について米政府から説明を受けた関係者は、米政権が今回の飛来を公表した理由は米本土の飛行時間が最も長かったからだと話した。一方で過去のケースは本土の飛行時間が短くてすぐに探知できず、公表のタイミングを失っていた可能性が浮上してくる。
AP通信によると、サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は6日、バイデン政権下で実施した中国の偵察活動に対する防衛力強化が今回の気球の発見につながったと主張した。「トランプ政権が発見できなかったものを発見できるように能力を高めた」と訴えた。
政権は能力改善を強調したが、その詳細は明らかにしていない。約20年間にわたって続いたテロとの戦いでは米本土がミサイルによる攻撃対象になるとは考えにくかった。中国やロシアは米本土を射程に入れるミサイルなどを配備し、米国のミサイル防衛を突破するために高度な技術を開発している。
国防総省によると、中国は2021年夏にロケットで地球を周回する軌道に極超音速滑空体を投入し、攻撃目標が近づいた段階で下降させた。飛行距離が長く、米軍のミサイル防衛が手薄な南半球回りの攻撃が可能になる。ロシアも南半球回りの攻撃能力を高めているとされる。
中国やロシアが米本土防衛が脆弱だと受け取れば、米国がインド太平洋や欧州地域での紛争への介入に慎重になると判断されかねない。介入すれば本土が攻撃を受けるリスクがあるからだ。結果的に米国の抑止力が弱まり、中ロの挑発行為を助長する恐れがある。
米政治サイトのポリティコによると、米議会下院は中国の偵察気球に関する非難決議の採決に向けた協議に入った。野党・共和党のマッカーシー下院議長は「我々の最大の強さは中国に対して一枚岩になったときに発揮できる」と語り、超党派での可決を目指す考えを示した。週内の採決を目指す。
共和党ではバイデン政権の対応を批判する声も根強い。共和党のジム・ジョーダン下院議員は6日、ツイッターで「私たちの最高司令官(であるバイデン氏)が偵察気球による全米飛行を許しているようでは(7日の)一般教書演説が力強いものだとは言いがたい」と書き込んだ。

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