米国、トルコのシリア地上侵攻を警戒 対テロ作戦に緩み - 日本経済新聞
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米国、トルコのシリア地上侵攻を警戒 対テロ作戦に緩み

【ワシントン=中村亮、イスタンブール=木寺もも子】バイデン米政権がトルコによるシリアへの地上侵攻に警戒を強めている。テロ対策で米軍と協力するクルド系武装勢力を標的にしているからだ。トルコには国内の治安強化に加え、米国から武器調達を進めるための交渉材料にする思惑も見え隠れする。

オースティン米国防長官は11月30日、トルコのアカル国防相と電話し、トルコによるシリアへの地上侵攻に強く反対すると伝えた。アカル氏は12月2日の記者会見で「国土や国民を守るために必要なことはためらわずに何でも行う」と明言。米国に対して「テロリストを支援するな。関係を絶て」と反発し、両国の溝は埋まらない。

トルコは11月13日に最大都市イスタンブールで6人が死亡した爆弾テロをきっかけに地上侵攻の準備を始めた。クルド勢力側は関与を否定したが、トルコは同勢力の犯行だと主張し、報復としてシリアとイラク北部で空爆や砲撃を続けている。アカル氏によると、2日までに491人の「テロリスト」を「無力化」した。

トルコのエルドアン大統領は「戦車と兵士」を用いた地上作戦の実施も示唆し、トルコ高官によると、作戦の準備はほぼ完了しているという。

米国とトルコはシリアを巡って対立してきた。シリア北東部に展開する米軍は、クルド人主体の民兵組織「シリア民主軍」(SDF)と協力し、過激派組織「イスラム国」(IS)掃討作戦を実施。SDFをテロ組織と同一視するトルコは反発していた。

SDFはトルコの越境攻撃に備えを強化したとみられ、ISに対する圧力が緩んでいる可能性がある。米国防総省のライダー報道官は11月29日の記者会見で「(SDFとの)共同パトロールの回数が減っている」と明らかにした。ロイター通信によると、SDFは12月2日に全ての共同パトロールを一時中断したと発表した。

SDFが米国とテロ対策で協力するのはトルコからの攻撃を抑止する狙いもある。SDFのマズルム・アブディ司令官は12月上旬、米紙ワシントン・ポストに「我々はシリアで米国に最も忠実な協力者だ。我々を忘れるな」と題する寄稿をした。「国際社会はトルコの侵攻を防ぐために具体的な措置を直ちに講じるべきだ」と訴えた。

クルド勢力は米国の政策決定に振り回されてきた。トルコ軍は2019年にシリアへ越境攻撃を実施し、当時のトランプ米大統領は米軍が戦闘に巻き込まれないように北部からの全面撤収を指示した。トルコによる地上侵攻を事実上容認したと受け止められ、SDFは米国が裏切ったとして猛反発した。

トルコは戦闘機F16の調達に向けて米国を揺さぶっている可能性がある。シリアへの侵攻をちらつかせて対米交渉のカードとするシナリオだ。バイデン米大統領は6月にF16の売却に賛成する方針を表明した。米政権内で売却手続きが詰めの作業に入ったとされるが、米議会は売却に慎重論が根強く、実現に不透明さが残っている。

トルコでは武装闘争で過去に計4万人が死亡したとされるクルド系勢力への嫌悪感が強い。23年半ばまでに大統領選と議会選を控えるエルドアン政権としては、強硬な姿勢で国民の支持を集めたい。

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