旧Facebook、「Apple規制」が直撃 利用者も初めて減少

【シリコンバレー=奥平和行】米メタが試練に直面している。動画アプリとの競争激化を背景にSNS(交流サイト)「フェイスブック」の利用者が初めて減少。米アップルのプライバシー保護規制の強化が主力の広告事業の足かせとなっている。収益基盤が弱まれば、注力する仮想空間「メタバース」の構築にも影を落としかねない。
「競争激化の影響を受けた」。2021年10~12月期決算を発表した2日、メタのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は説明した。売上高は前年同期より20%多い336億7100万ドル(約3兆8500億円)となったものの、純利益は8%減の102億8500万ドルと振るわなかった。
グループ全体の利用者は増加基調を保ったが、21年12月末時点の「フェイスブック」の1日あたりの利用者は19億2900万人と3カ月前より100万人減った。減少は初めてで、2日の米株式市場の時間外取引で株価は一時、同日終値より20%超下落。時価総額は約2000億ドル減った。

背景には1分程度の短い動画を共有するサービスの人気が高まったことがある。中国発の「TikTok(ティックトック)」は世界で若年層の支持を集め、配信する広告も増えた。ロイター通信は1月、運営会社の21年の売上高が580億ドルと前の年より70%も急増したと報じている。
アップルが自社のスマートフォンでアプリの利用状況を外部企業が把握するための機能を制限したことも響いた。メタはアップル製品からのデータへの依存度が高く、相対的に影響が軽く配信対象を絞り込む精度を維持できた米グーグルなどに広告が流れたとみている。幹部は2日の説明会で、この影響が続き22年の売上高が100億ドル減るとの見通しを示した。
メタはティックトックの人気が高まっていることを受け、自社で運営する画像共有アプリ「インスタグラム」に20年から組み込んでいる同様の機能「リールズ」を強化して対抗する考えだ。2日にザッカーバーグCEOは22年の重点投資分野を説明し、このなかでリールズ向けを最優先する考えを示した。
ただ、リールズの強化は短期的に収益への逆風となる可能性がある。始めてから日が浅いリールズは広告への対応が遅れているためだ。利用者がリールズに流れると広告を組み込んでいる既存サービスの利用が減る恐れがあり、利便性を低下させることを避けつつ広告を増やすことが課題となる。

直面する課題を乗り越えられるかは、同社などが「次世代のインターネット」とみるメタバースを巡る競争の行方も左右する。旧フェイスブックは21年10月、メタバースを事業の主軸に据えるため社名を「メタ」に変更した。同社に加え、情報技術(IT)分野を中心に多くの企業がメタバースや、構成要素の仮想現実(VR)などの技術に興味を示している。
メタは今回の決算発表から開示方法を変え、メタバース関連事業の損益の公開を始めた。21年通年ではVR端末などの売上高が前の年の2倍の22億7400万ドルに増える一方、営業赤字は101億9300万ドル(前の年は66億2300万ドル)まで膨らんだ。採用や研究開発費を積み増していることが響いた。
ザッカーバーグCEOは2日、高性能な新型VR端末を開発して年内に発売する方針を説明するなど、この分野に積極投資を続ける考えを示した。ただ、メタ幹部は本格的な普及の時期や収益化について「5~10年、場合によっては15年必要になるかもしれない」と説明する。SNSや広告といった祖業で成長を取り戻すことが先行投資を続ける条件となる。
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