中国の偵察気球、米本土の軍事施設対象か 対立の火種に - 日本経済新聞
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中国の偵察気球、米本土の軍事施設対象か 対立の火種に

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【ワシントン=中村亮】米国防総省高官は2日、中国の偵察気球が米本土上空を飛行していると明らかにした。軍事施設の偵察を試みた可能性があり、米軍の情報収集能力を試したとの見方もある。米中対立の新たな火種になりかねない。

米国防総省のライダー報道官は2日、記者団に偵察用気球が米本土上空を飛行していると明らかにした。同省高官は「中国の気球だと確信している」と説明した。気球は民間機の一般的な飛行高度より高い位置を飛行しており、軍が監視を続けている。

米紙ニューヨーク・タイムズによると、気球は中国から米アラスカ州付近を通り、カナダ北西部を経由して西部モンタナ州に入った。高官はモンタナ州での気球の飛行を認め、「機密のある場所」の偵察を試みたと主張した。同州には大陸間弾道ミサイル(ICBM)を運用するマルムストロム米空軍基地があり、偵察対象になっていた可能性がある。

米国は米首都ワシントンの在米中国大使館と、北京の米国大使館を通じて中国側に「問題の深刻さ」を伝えた。「国民や本土を守るために全ての手段を講じる」とも強調した。

中国外務省は3日、米本土上空の気球を中国のものと認め「民間の気象研究用の飛行船が航路を外れた」と主張した。同日夜にホームページにコメントを掲載し「西風の影響を受け、不可抗力で米国に迷い込んだ」として「遺憾」だと表明した。

日本の防衛省の青木健至報道官は3日の記者会見で「これまで気球による領空侵犯について確認して公表した事実はない」と述べた。気球であっても国際法上の航空機として捉え、領空侵犯があれば「個別具体的な状況に応じて対応する」と説明した。

オースティン米国防長官は1日、フィリピン訪問中に米軍高官と緊急会議を開いて対応策を議論した。

米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長や北方軍のバンハーク司令官は、撃墜すれば残骸が居住地域に落下するリスクがあると指摘し、撃墜すべきでないと進言した。1日にモンタナ州の人口が少ないエリアの上空を飛行した際に撃墜を検討したが、一般市民へのリスクを排除できないと判断し見送った。

国防総省で中国担当を務めたライル・モリス氏は「中国が偵察活動に対する米国の対処力を試した」と分析した。中国の気球であると明確に示す証拠はないとみて、発見されても否定できると見込んだ可能性があると言及した。

米ハドソン研究所アジア太平洋安全保障部長のパトリック・クローニン氏は中国が気球を使ったのは発見されることを前提にしており「かなりずうずうしい行為だ」と批判した。中国の人工衛星は米軍のICBMの核戦力を監視しており、気球を米本土に送る意義は乏しかったと触れた。

それでも偵察気球を使った理由について、ブリンケン米国務長官が予定していた中国訪問前に「米国の関心を引くための心理戦を仕掛けた」と指摘。「米中対立が手に負えなくなる前に台湾支援やアジアでの軍事的関与を取り下げるべきだとのメッセージを送った」と分析した。

国防総省高官は過去数年間で似た事案が数件あったと説明したが、米政権はこれまで公表を控えてきたとみられる。2日に米政府から偵察気球の飛行について説明を受けた関係者によると、政権は公表に踏み切った理由について過去の事例より米本土での飛行時間が長かったからだと説明したという。

同関係者は「これまでに同じ事案があったのに公表していなかったとすれば大きな驚きだ」と指摘。バイデン政権の説明に疑問を呈した。モリス氏は水面下で懸念を伝えても中国の行動が変わらないため、公表に踏み切った可能性があると指摘した。

佐藤丙午・拓殖大教授は「気球を狙ったところにピンポイントに飛ばす制御は難しい。継続的に一定の地域にとどまって周辺の電波情報を収集しようとしたのではないか」と話す。米国防総省は衛星以上の情報は得られないとの分析も明かしている。佐藤氏は「中国側からどういう機器が搭載されているかに関する情報を得ていて、いま撃ち落とす必要はないと判断したと推測される発信だ」と指摘した。

偵察気球は米中対話に影を落とすシナリオが考えられる。ブリンケン氏は5日にも中国を訪れて中国高官と会談する予定だった。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)はブリンケン氏が中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席とも会談すると報じ、双方が過度な緊張の高まりに歯止めをかけるとの見方が出ていた。

米下院中国特別委員会の委員長を務める共和党のマイク・ギャラガー議員と同委員会で民主党トップを担うラジャ・クリシュナムルティ議員は2日の共同声明で、偵察気球を巡り「米国の主権侵害であるだけでなく、最近見えた中国の外交面での(前向きな)予兆は政策の具体的な変更を意味しないことが明確になった」と断じた。

米政権は2日、米軍が台湾周辺や南シナ海での有事への対応を視野にフィリピンで使える軍事拠点を5カ所から9カ所に増やす計画を明らかにした。ブルームバーグ通信などによると、米国は日本やオランダと先端半導体の対中輸出規制に合意した。いずれもブリンケン氏の訪中前に中国への包囲網を強める狙いがあった。

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