プーチン氏「精神状態」分析 米情報機関の最優先課題に
「ロシア制裁、侵攻に不釣り合いと激怒」 米報道

【ワシントン=坂口幸裕】バイデン米政権がウクライナに侵攻したロシアのプーチン大統領の精神状態の分析を最優先課題に位置づけていることがわかった。米メディアによると、核の使用をちらつかせ民間人を狙った攻撃も続けるプーチン氏の判断に米政権内で懸念が高まり、情報機関に最優先課題として評価するよう指示した。
米紙ワシントン・ポスト(電子版)は1日、米欧の情報機関の話として「プーチン氏は孤立し、ウクライナを制圧する難しさや費用について真実を伝えない少数の側近に依存しているようにみえる」と伝えた。「妄想に陥り、追い詰められると暴発する危険性のある指導者」とも解析した。
米政府がプーチン氏の言動に不安を募らせるきっかけのひとつが核への言及だ。プーチン氏は2月27日、核戦力を含む軍の核抑止部隊に任務遂行のための高度警戒態勢に移行するようショイグ国防相らに指示した。
2月24日の侵攻開始から軍事作戦がエスカレートしている点もプーチン氏への疑心に拍車をかける。当初は飛行場や地対空ミサイルシステムなど軍事拠点が主な標的だったもようだが、学校や病院、住宅など民間人を含めた無差別攻撃が広がっている。
クラッパー元米国家情報長官は米CNNのインタビューで「プーチン氏は動揺している。彼の洞察力とバランス感覚が本当に心配だ」と述べた。
プーチン氏を追い詰めた要因が米欧や日本などが発動したロシアへの金融・経済制裁とみられる。大手・中堅7行を「国際銀行間通信協会(SWIFT)」から排除し、米国は最大手行ズベルバンクなどのドル取引を禁止。中央銀行の外貨準備も凍結し、ロシア経済はルーブル急落と外貨枯渇で混乱する。
CNNによると、米連邦捜査局(FBI)が最近まとめた報告書で「プーチン氏が制裁についてウクライナ侵攻に対する不釣り合いな反応だと激怒している」との発言が紹介された。一方「激怒しているように見せかけ、制裁を緩和させるように情報を出している可能性もある」という。
侵攻が当初予想した形で推移していない点もプーチン氏をいら立たせる。「ウクライナ軍の抵抗がロシアの想定よりも強い」(米国防総省高官)。事前に「親米欧のウクライナ政府は48時間以内に崩壊する」とみていた米当局の予測も覆した。
米欧はプーチン氏を過度に刺激しないよう意識する。米国防総省は今週に予定していた大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を延期すると発表した。カービー報道官は2日「誤解されかねない行動をとる意図はないことを示す」と説明した。
こうした姿勢はバイデン氏が1日に臨んだ一般教書演説にも表れた。「米軍はロシア軍との紛争に関与しない。ウクライナで戦うためでなく北大西洋条約機構(NATO)の同盟国を守るために欧州に行く」とわざわざ言及した。NATOのストルテンベルグ事務総長も「ウクライナに兵士を送る計画はない」と話す。
プーチン氏がNATOを敵視する理由に11年に死亡したリビアの最高指導者カダフィ大佐と自身を重ねているとの見立てもある。NATO軍の支援を受けたリビアの反体制派の攻勢でカダフィ政権は崩壊し、同氏は殺害された。
リビアでは11年に飛行禁止空域を設けられた。ウクライナ政府はNATOにウクライナ上空を飛行禁止空域にするよう求めているが、NATOは慎重だ。紛争時は空域に侵入する飛行機も攻撃対象に含みロシアとの全面戦争に発展するリスクが高まるからだ。
旧ソ連の情報機関「国家保安委員会(KGB)」出身で「ハード・ターゲット」と呼ばれるプーチン氏の本音を探るのは極めて困難とされる。危機のさなかにある今ほど米欧の情報能力が試される場面はない。
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