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米朝、遠い対話 北朝鮮は核軍縮交渉狙う

(更新)

【ワシントン=永沢毅】米国と北朝鮮の対話再開のメドが立たない。バイデン米政権の繰り返しの呼びかけに北朝鮮が応じる姿勢をみせない一因には、非核化の対象を巡る双方の認識の食い違いがある。対等な立場で「核軍縮交渉」に持ち込みたい北朝鮮に米政権は難しい対応を迫られている。

「北朝鮮がこの機会をとらえるよう望んでいる」。シャーマン米国務副長官は2日、訪問先のバンコクでの電話記者会見で北朝鮮に対話に応じるよう改めて呼びかけた。バイデン大統領が北朝鮮に精通したベテラン外交官のソン・キム氏を北朝鮮担当特使に就けた人事を「対話の準備、用意ができているというシグナルだ」と強調した。

バイデン政権は歴代米政権の対北朝鮮政策の検証を踏まえ、対話に基づく「緻密かつ現実的なアプローチ」を通じて最終的な非核化に向けた進展をめざす方針を示した。詳細は明らかにしていないが、北朝鮮による非核化の取り組みに応じて制裁緩和など見返りを米国が提供する、いわゆる「段階的な非核化」を探っているとみられている。

米国は2月ごろから北朝鮮に接触を試みているが、北朝鮮からの反応はない。米政府関係者は、その一因として「北朝鮮は自らの非核化を最終目標にする対話のテーブルに着く意思がないためだ」とみる。

現政権に近い関係者によると、1月の政権発足前、バイデン氏の周辺には「北朝鮮を核保有国とみなして核軍縮交渉に応じざるを得ない」との意見も浮上していた。その後の検証を経て、非核化を目標にする現行の方針に落ち着いた。北朝鮮もこうした動きを把握していたとみられ、バイデン政権の足元をみる現在のかたくなな姿勢につながっている可能性がある。

米側での軍縮交渉の容認論には北朝鮮の著しいミサイル能力の向上がある。北朝鮮はトランプ前政権との約束を守り、大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験を凍結してきた。「ただ、その間にもミサイルの性能を高め、現在の米本土のミサイル防衛体制では十分に対応できなくなりつつあるほど脅威は高まった」。米ランド研究所のブルース・ベネット上席研究員はこう分析する。

旧冷戦下の米ソのような核軍縮交渉は北朝鮮がかねて望んできた。「私たちは互いに核保有国と認め、対等な立場で話し合うべきだ」。北朝鮮と交渉経験のある元米国務省当局者のエバンス・リビア氏によると、過去の米朝対話で北朝鮮の李容浩(リ・ヨンホ)外相はこう要求したという。「非核化は米国が韓国との同盟を終わらせ、米軍が朝鮮半島からいなくなってから検討してもよい」とも言い放った。

バイデン氏は5月下旬の韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領との共同声明では「朝鮮半島の完全な非核化」を目標に掲げた。4月の菅義偉首相との共同声明に明記した「北朝鮮の完全な非核化」とは違いがある。前者は北朝鮮が求める朝鮮半島有事での韓国への米国の核持ち込みや核搭載の戦略爆撃機派遣の禁止なども含意し、本来なら米国には到底受け入れられない内容だ。

バイデン政権が非核化の対象を巡る表現を使い分けてあえて曖昧に解釈できるようにしているのは、北朝鮮に配慮する韓国の立場を尊重するとともに、米朝対話への道筋を残す狙いがある。しかし、あくまで目標が非核化であることには変わりない。

北朝鮮に融和的な姿勢を崩さない韓国の文政権には、米朝対話の実現のためにまず北朝鮮に見返りを与えるべきだとの意見もある。しかし「韓国の助言を受けて米朝首脳会談に応じるなど、米国はトランプ政権時代に北朝鮮に多くを譲歩してきたが何も得られなかった。バイデン政権はその教訓を分かっている」(ベネット氏)。

バイデン政権は北朝鮮に核・ミサイル開発の時間稼ぎを許したオバマ政権の「戦略的忍耐」のアプローチは採用しないと明言している。長期戦覚悟で粘り強く北朝鮮に対話を促す方針はオバマ政権と同じ轍(てつ)を踏むリスクがある。

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金正恩(キム・ジョンウン)総書記のもと、ミサイル発射や核開発などをすすめる北朝鮮。日本・アメリカ・韓国との対立など北朝鮮問題に関する最新のニュースをお届けします。

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