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クラウド「業界特化型」激戦 Amazonは金融・車向け

企業向けクラウドコンピューティングサービスの分野で、特定の業界に特化した製品が激戦区になってきた。最大手の米アマゾン・ドット・コムは金融や自動車といった業界向けの製品を相次ぎ投入する。クラウドの競争激化を背景に大手が個別業界への対応を強めており、IT(情報技術)業界における役割分担の見直しにつながる可能性がある。

「長年にわたって注力してきた基盤となるサービスの開発に加え、業界特化型のサービスへの需要が高まっていることに対応する」。アマゾンのクラウド事業会社、米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)のアダム・セリプスキー最高経営責任者(CEO)は11月30日の記者会見で強調した。

AWSは従来、高性能なサーバーやデータベースなどを割安な価格で使えることを前面に押し出していた。業界や企業ごとの対応は「システムインテグレーター」などと呼ぶIT企業が担うことが多かったが、12月3日まで米ラスベガスで開いた年次顧客・開発者会議では業界特化型の説明に費やす時間を増やした。

米ゴールドマン・サックスと組み機関投資家を対象としたデータ管理・分析サービスを始めたほか、自動車業界向けにはコネクテッドカーから情報を収集して自動運転ソフトの精度向上や故障の予知などに活用できるようにする製品を追加する。製造業が仮想空間で現実の世界を再現する「デジタルツイン」を構築しやすくする製品も開発した。

背景にあるのはクラウドをめぐる競争の激化だ。米シナジー・リサーチ・グループによると、2021年7~9月期のインフラを主体とするクラウドの世界市場は前年同期比37%増の454億ドル(約5兆1000億円)まで拡大した。先行したAWSは首位を守っているが、米マイクロソフトや米グーグルが追い上げて差を縮めている。

両社はAWSとの違いを出すために、業界特化型に力を入れた。マイクロソフトは音声認識技術の米ニュアンス・コミュニケーションズを197億ドルで買収することを決め、同社が強い医療分野へのクラウド提供を強化する。グーグルも得意とする音声認識技術を使ったコールセンター向け製品などを拡充し、小売業などの開拓につなげた。

AWSは企業が老朽化した情報システムからクラウドに移行するのを支援するサービスも拡充。例えば対応技術者の減少が社会的な課題になっている「COBOL(コボル)」で開発したプログラムを、クラウドで使えるように自動変換する製品を加える。プログラミングの知識が乏しくても機械学習を活用できるようにするサービスも発表した。

AWSが基盤となる技術に加えて業界特化型にも注力することにより、技術力や資金力が高い米大手がIT業界をけん引する傾向が一段と強まる。マイクロソフト、グーグルを加えた「3強」のクラウドの世界シェアは7~9月期に63%に達し、3年前より約10ポイント上昇した。巨大IT企業の独占・寡占への批判が高まるなか、新たな火種になる可能性がある。

日本には有力なクラウドのインフラ企業がない。デジタル庁が行政サービスに活用するクラウドの提供企業としてAWSとグーグルを選定したが、官民ともに利用は遅れてきた。

障害などのリスクを冷静に評価して使いこなさなければ、人工知能(AI)やIT人材の活用などでさらに劣後することになりかねない。

「専門人材の採用強化」 AWS新CEOに聞く


5月に米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)の最高経営責任者(CEO)に就いたアダム・セリプスキー氏に事業環境や今後の方針を聞いた。

――競合企業がクラウドコンピューティング市場でシェアを拡大しています。
「当初、多くの企業は懐疑的だったが、クラウドの需要は高く魅力的な市場だ。後続企業はゼロから事業を立ち上げており、シェアが上向くのは当然だ。将来的には勝者総取りとはならず複数の勝者が併存する状態になるとみているが、規模と高い専門性を兼ね備える企業はごくわずかだろう」

「競合他社は当社の研究に長い時間を費やしているが、私たちはそういうことには興味がない。競争に勝つことではなく、顧客を中心に考えるのが私たちの戦略だ。当社は他社より5~6年早く事業を始め、経験の蓄積もある。その結果、高い利益率を維持しながら、どこよりも多くの新規ビジネスを獲得している」

――特定の業界に向けたサービスを強化しています。

「各業界や顧客企業を取り巻く環境が変化していることを受け、(私がCEOに着任する)数年前から対応してきた。個人的にも需要は強いとみており、業界固有の問題を解決するサービス開発に向けて投入する経営資源を増やしていく。当社は様々な業界のリーダーたちと協力し、各業界の課題を理解して解決できる立場にある」

――米ゴールドマン・サックスと共同で金融業界向けのサービスを始めます。

「金融だけではない。自動車では独フォルクスワーゲン(VW)と協力し、製造やサプライチェーン(供給網)を合理化するサービスを開発して外販している。このように事業会社とソリューション提供に乗り出す事例はほかの業界でも増えるはずだ」

――各業界との連携を深めるためには高い専門知識を持つ人材を増やす必要があります。

「各業界に精通した専門人材の採用に力を入れていく。大手企業で最高情報責任者(CIO)や最高デジタル責任者(CDO)を経験した人材を数多く採用している。こうした採用を通じて自動車や通信、エネルギー、金融サービスといった重要市場への対応を強める」

「一方、過度の(縦割りが強まり部門間の連携が取れなくなる)サイロ化も避けなければならない。そのためにセキュリティーやシステム移行といった分野は全社共通にする必要がある。双方を最適な形で組み合わせて提供し、その方法は一社ごとに異なる」

――事業領域を広げると、これまで関連業務を担ってきたパートナー企業との関係が悪化しませんか。

「そのようなことはない。事業機会は非常に大きく、当社の製品を活用して成功しているパートナー企業は数千社に上り、現在も増え続けている。顧客企業の期待は高く、当社もパートナー企業も立ち止まるのではなく、イノベーション(技術革新)を起こし続ける必要がある」

(シリコンバレー=奥平和行、白石武志)

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