FRB議長、引き締め「まだ効力発揮せず」 会見要旨 - 日本経済新聞
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FRB議長、引き締め「まだ効力発揮せず」 会見要旨

米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は1日、米連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見で「金融引き締めはまだ十分な効力を発揮していない」と述べ、継続的な政策金利の引き上げ方針を示した。主な発言と質疑応答は以下の通り。

本日、FOMCは政策金利を0.25%引き上げることを決めた。我々は物価上昇率を目標の2%に抑えるため、今後も利上げを続けることが適切だと予想している。

インフレは鈍化しつつあるが、満足するのは早い

米経済は2022年に著しく減速した。実質国内総生産(GDP)の成長率の中央値は1%と、長期的な成長率の中央値を下回った。直近の指標をみると、消費と生産は緩やかに成長した。個人消費は金融引き締めの影響もあり控えめに拡大した。住宅ローン金利が高止まりし、住宅市場は弱まった。また、高金利は企業による設備投資の重荷となっている。

一方、労働市場は非常に逼迫している。失業率は50年ぶりの記録的低水準で推移しており、賃上げ圧力も続いている。過去3カ月、雇用者数は月間平均で24万7000件増えた。雇用者数の増加幅は過去1年間で鈍化しつつあり、実質賃金もある程度落ち着き始めている。半面、労働需給は依然としてバランスを欠いている。労働需要が供給を大幅に上回る状況はなお続いており、労働参加率は1年前からほぼ横ばいだ。

インフレ率は我々の長期的な物価上昇率の目標である2%を大きく上回っている。一方、22年12月の個人消費支出(PCE)物価指数は前年同月比で5%上昇した。変動の激しい食品とエネルギーを除いたコアPCEは同4.4%上昇した。長期的な物価上昇率の予測値も固定されている。過去3カ月の物価指標はインフレが鈍化しつつあることを示した。我々はこれを歓迎するが、満足するのはまだ早い。物価上昇率の鈍化を示す決定的な根拠が必要だ。

FRBの金融政策は雇用の最大化と物価の安定を目標としている。利上げの効果は時間差で経済活動と物価に波及する。利上げのペースを減速することで、我々の目標へ向けて米経済の進捗を精査できる。時期尚早な金融緩和への切り替えを控えるべきなのは過去の例を見れば明白だ。我々は目標を達成するまで引き締めを継続する。

労働市場は依然として逼迫

――過去3カ月ほどの間に賃金や消費の伸びが鈍化している一方で、失業率はなかなか上昇しない。インフレが低下するための失業率の見通しを変える必要があるか。

「労働市場に打撃を与えることなく物価鈍化の兆しが出てきたことは良いことだ。ただ、鈍化してきたのは供給網が安定したことによるモノの物価が中心で、これはまだインフレ低下の初期段階でしかない。サービスセクターの物価は上昇を続けている。住宅市場はリースの価格低下が見込めるが、住宅関連サービスやその他のサービスの価格はまだ減速の兆しが見えない。賃金は鈍化傾向にあるが求人件数などは高く、労働市場は依然として非常に強い状況だ」

――失業率を大きく上昇させることなく、PCEの上昇率が鈍化している。FRBのブレイナード副議長は講演で、インフレ要因が賃金ではない可能性を示唆したが、どう考えるか。

「3カ月という短い期間で見ればPCEのインフレ率は現在かなり低い。だが、それはモノの価格が著しく下がっているためだ。多くの人がこの下落は一過性のものと考えており、すぐにゼロ前後に戻るとみている。したがって、多くの人が(エネルギーと食品を除く)コア指数は23年半ばまでに4%になると予測している。まだやるべきことは残っている。金融サービスは労働市場の賃金にあまり左右されない。飲食業にとっては労働市場が極めて重要であり、輸送サービスは燃料費の影響も受ける。インフレを加速する要因は多いが、労働市場全体のバランスが改善されない限り、2%の水準に持続的に戻ることはないだろうと私は考える」

「経済が大きく落ち込み、失業率が大幅に上昇することなく、インフレ率を2%に戻す道があると私は信じている。我々が置かれている環境がかなり特殊だからだ。当初のインフレは、非常に強い需要と厳しい供給制約によるもので、以前の景気循環ではあまり見られなかった。モノのインフレは収まりつつある。住宅のインフレが収まる理由も明らかだし、住宅以外のサービス業でもすぐにインフレが鈍化してくるだろうが、まだ見えていない。労働市場の弱含みがまだ見られないので、様子を見るしかない。誰も予測ができない」

サービスのインフレ、依然高い

――声明文ではインフレ動向について首尾一貫していないが、不透明要素が多いからなのか。

「モノの価格は初めて低下傾向が見えてきた。これは望ましいことだ。次に住宅サービスはリース価格が近い将来低下するということで、下落がパイプラインに入っているという判断だ。しかし、物価指標の6割を占めるサービス業はまだインフレ低下が見えていない。このセクターの物価上昇はおそらくしつこく続く可能性があり、この部分の対策が必要とみている」

――歴史的に低い失業率にもかかわらず最近はインフレ率が下がってきている。今なお利上げが必要だと考えるのはなぜか。なぜここで利上げを停止して、数カ月様子をみて再び利上げするということをしないのか。

「我々はこれまで4.5%金利を引き上げてきた。さらなる金融引き締めの状態に到達するにはあと2〜3回の利上げが必要だと考えている。なぜ利上げが必要かといえば、インフレ率がまだ非常に高い水準にとどまっているからだ。当然、(金融政策がインフレに効くまでの)時間差は考慮している。我々はまだサービス分野への(金融政策による)影響を目にしていない。まだわからないのだ。我々は非常に不確実な世界にいる。(名目金利から予想インフレ率を引いた)実質金利は現在プラスになっている。我々はどの程度が十分に引き締め状態といえるかについて、細かく判断しようとしている。そして我々は0.25%の利上げに減速した。慎重に経済、インフレ、そしてディスインフレの進捗を見守るつもりだ」

――冒頭では、インフレが減速しているという決定的な根拠が必要だと言っていたが、どれくらいの期間で様子を見ていく必要があるのか。労働市場の需給が緩和され、実質的な進展が見られるようになる必要があるということか。

「3月のFOMCまでに、あと2回の雇用統計と消費者物価指数の発表がある。足元のデータでは賃金の伸びが下がってきているが、依然として新型コロナウイルス流行前をはるかに上回る水準で推移している。今後も蓄積された証拠をもとに、政策に反映していく」

――最近の経済指標を踏まえ、12月時点のフェデラルファンド(FF)金利のピーク見通しは変わったか。

「12月時点のFF金利のピーク見通しの中間値は5〜5.25%としていたが、3月の会合でその水準を改定する。3月までのデータを踏まえ、必要ならその水準をさらに引き上げる可能性もある。また、その逆もしかりだ」

不十分な引き締めはリスク大きい

――FF金利のピークの水準を引き上げる場合と引き上げない場合のリスクのバランスをどう見ているのか。

「このリスクのバランスをとるのは非常に難しい作業だ。我々の金融政策によるインフレ抑制が不十分で6〜12カ月後に再びインフレ圧力が高まるリスクもある。一方で引き締め過ぎのリスクもあるが、その場合は我々のツールを使うことができる。ただ、今の時点では4年ぶりの高インフレ退治は終わっていないといえる」

「住宅を除いたサービスセクターは過去6〜12カ月間の間に4%程度のインフレ率になっている。住宅サービスセクターもまだインフレ低下に向かう最中でしかない。インフレ退治に成功したと宣言することはまだできない」

――多くの指標が23年内に不況になると示唆している。景気後退の可能性は。

「私は22年のように、かなり控えめなペースでプラス成長が続くとみている。22年の(実質)GDP成長率は1%だったが、よいペースだと思う。世界情勢は少し良くなってきている。労働市場は非常に強い。インフレが収まれば、(消費者や企業の)心理も改善するだろう。民間、政府部門ともに建設支出が多く、経済活動を支えるだろう。これらの要因が今年のプラス成長を支える可能性は十分にある。私のベースケースは、今年はプラス成長になるだろうというものだ」

――利上げを一時停止し、再開する可能性についての議論はあったか。FRB高官が最近の講演でその可能性を示唆したようだが。

「FOMCは今が一時停止すべき時期とみなしていない。インフレ率を2%まで下げるような十分な引き締め効果を発揮するには、目標レンジ内での継続的な引き上げが適切だと今後も考えている。我々は3月に(政策金利の見通しも含む)新たな経済予測を発表する」

――昨年秋ごろから金融市場が緩み、1月には株式相場が上昇した。こうした状況は金融引き締めを難しくし、一段の利上げの必要に迫られるか。

「我々の金融政策の狙いは短期的な金融引き締めではなく、長期的な視野で持続的に金融市場を引き締めることだ。現時点では十分な引き締め水準になっているとはいえないと判断し、利上げを継続すると表明した」

インフレの予想、今後も難しい

――労働市場は堅調に推移しており、個人消費も伸びている。現在のインフレ率から目標の2%に到達するのは難しいとみるか。

「わからない。我々は21年末にはモノのインフレ率が低下すると想定していたが、実際は22年を通しても下がることはなかった。今後も予測することは難しいだろう。今はまだインフレ鈍化の初期段階にすぎず、経済全体に波及していくには時間がかかると見ている。急速な鈍化は見られないだろう。その場合、23年中に利下げや政策緩和をする見込みは薄い」

新型コロナ、米経済のリスクではなくなった

――声明では公衆衛生に関する言及がなかった。もう新型コロナを米経済のリスクとして捉えていないということか。

「存在は認知しているが、もはや経済においてリスクになるような要因ではないだろう」

債務上限問題、「議会が解決すべき仕事」

――米国の債務上限問題について。もし財務省の資金繰り策が尽きる「Xデー」を過ぎたら、国債の償還に関して財務省がFRBに指示することを何でもするのか。

「進むべき道は1つしかない。米国政府がすべての債務を払うことができるよう、議会が債務上限を引き上げることだ。その道から外れることは非常にリスクが大きい。そしてFRBが経済を守れると思うべきではない。議会が解決すべき事柄で、債務上限を引き上げるのは議会の仕事だ。我々はこの議論に参加していない」

――米国債などの保有資産を圧縮する量的引き締め(QT)の継続にあたり、債務の上限を考慮する予定はあるか。

「起こりうるすべての可能性について考慮することは難しい」

(米州総局=赤木俊介、大島有美子、伴百江、佐藤璃子)

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