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ミャンマー事業に「国軍」リスク ポスコなど合弁解消へ 

傘下130社 「資金源」に株主などから批判

東京建物やフジタが開発中の「Yコンプレックス」(3月、ヤンゴン)

ミャンマーで外資系企業の事業リスクが高まっている。韓国鉄鋼大手のポスコグループは16日、現地企業との合弁解消を発表した。国軍がクーデターへの抗議活動を武力弾圧するなか、事業が国軍系企業の資金源になるとの批判を株主から受けたためだ。東京建物横河ブリッジホールディングスなど日系の事業にも類似の指摘があり、見直しの動きが一段と広がる可能性がある。

合弁事業の解消を発表したのはポスコ傘下のポスコ鋼板。国軍系のミャンマー・エコノミック・ホールディングス(MEHL)と建材用の鋼板工場を運営している。

合弁会社株はポスコ鋼板が70%、MEHLが30%を保有する。ポスコはMEHLの持ち分を買い取る交渉を始めるとしており、事業そのものは継続する意向だ。

ポスコ鋼板のミャンマー工場

ポスコは2月のクーデター発生当初は合弁解消の意向を示していなかった。ただ国軍のデモ活動の弾圧などに加え、英フィナンシャル・タイムズが4月5日、ポスコに投資するオランダ公務員年金基金の資産を運用するAPGが、合弁に懸念を表明していると伝えた。

キリンホールディングスもクーデター直後、MEHLとの合弁解消を発表した。持ち株をキリン側が買い取る交渉を始めたが、まだ進展はない。

一方、株式を買い取る場合でも、その資金はMEHLに渡ることとなり、批判を浴びる可能性がある。合弁会社が生産する「ミャンマー・ビール」などで国内シェアは8割近くあったが、MEHLとの関係を嫌った市民の不買運動が起き、スーパーや飲食店の多くが販売を取りやめている。

ミャンマー国軍の支配下にある国軍系企業の持ち株会社は2社ある。

MEHLが主に金融や貿易、宝石関連事業などを手掛けるほか、ミャンマー・エコノミック・コーポレーション(MEC)は携帯通信や港湾事業、製造業などが主力だ。国連の最新の報告書によると、両社は傘下に合計133社を抱える。いずれも3月下旬に米国による制裁対象となった。

ミャンマーは2011年の民政移管後、「アジア最後の経済フロンティア」と呼ばれ、外資が競って参入した。同国に進出した日本企業は約400社に上る。外資規制も残るなかで、事業は現地企業と組む必要があり、その相手が国軍系に連なるケースも多い。

最大都市ヤンゴンの中心部で、東京建物やフジタが合弁で手掛ける再開発事業「Yコンプレックス」。総額約370億円を投じ、国防省が所管する旧軍事博物館の跡地(約1万6千平方メートル)にホテルやオフィスビル、商業施設を建設中だ。

この事業にも批判が浮上している。非政府組織(NGO)「ジャスティス・フォー・ミャンマー」は国防省に支払われる用地賃借料が年210万ドル(約2億3千万円)に上ると指摘する。

同NGOを含む国内外の5つの人権団体は2月、国軍への資金提供につながっていないか国連人権高等弁務官事務所に調査を求めた。さらに「国軍が文民政権の監督下に置かれるまで、プロジェクトを停止するよう勧告すべきだ」と提言した。

東京建物は日本経済新聞の取材に、「用地代は合弁相手の現地企業に支払っている。土地を所有する国防省は政府の一機関で、最終的な受益者はミャンマー政府だと認識している」と説明する。フジタも同様の回答を寄せた。ただし、憲法では国防相の人事権を国軍総司令官が握り、国防省は軍の支配下にある。

東京建物はオフィスの営業活動を進めてきたが、外資系企業は入居を避ける可能性が高い。ホテルを開業予定だったホテルオークラは従業員の採用活動を3月に停止。開業時期は「事業主の判断に委ねており、コメントできない」という。

日本の円借款で進める「バゴー橋」の建設現場。国軍系企業の関与が判明した(5日、ヤンゴン)

円借款を供与するインフラ事業に国軍系企業が関与する事例もある。日本の官民が開発したヤンゴン近郊のティラワ経済特区につながる「バゴー橋建設事業」だ。19年3月、横河ブリッジと三井住友建設の共同企業体が280億円で受注したが、その下請けにMECが入っている。

横河ブリッジはMECへの発注を認め、今後の対応は「国際協力機構(JICA)や他社と協議したうえで検討する」という。三井住友建設は「発注先にMECは含まれない」とし、横河ブリッジと異なる認識を示す。

民主化が順調に見えたミャンマーでクーデターや激しい国民弾圧は想定外といえる。ただ、リスクの芽はあった。17年に国軍によるイスラム系少数民族ロヒンギャへの迫害が起きた後、東京建物やフジタ、キリンの事業はすでに人権団体などから問題視されていた。

バゴー橋の事業についても、JICAによると下請け契約は19年11月に締結した。国連の報告書が同年8月、「国軍系企業との関係を断絶すべきだ」としたのに、そのまま契約した形だ。対応が後手に回り、より大きなリスクを招いた面も否定できない。

(ヤンゴン=新田裕一、ソウル=細川幸太郎)

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ミャンマー国軍は2021年2月1日、全土に非常事態を宣言し、国家の全権を掌握したと表明しました。 アウン・サン・スー・チー国家顧問率いる政権を転覆したクーデター。なぜ起きたのでしょうか。 最新ニュースはこちら。

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