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米新政権、アジアに反中強要は愚策(The Economist)

The Economist

世界の中でアジアほど米国の国益にとって重要な地域は他になく、米国の関与が薄れることで多大な損害を受ける地域も他にない。第2次世界大戦で日本に勝利して以来、米国はアジアの安全を保障してきただけでなく、貿易や比較的開かれた市場を保つ政策を通じてこの地域の著しい繁栄を支えてきた。

アジア諸国に募る不信感

したがって、アジアにおける米国の地位は高くなければならない。しかし、ドナルド・トランプ氏が米大統領だった4年間はその地位に打撃を与え、地域内の国際秩序を維持するために米国を頼ることが果たして賢明なのかという疑問をアジアの一部の人々に植えつける結果となった。

トランプ氏のスタッフは大事なことを一つだけ理解していた。権威主義的な中国の存在は、西太平洋地域での米国の優越的地位だけでなく、米国が支えてきた経済秩序にとっても脅威になっているという点だ。

中国は南シナ海で強引に勢力圏を主張し、台湾にけんか腰で迫り、新疆ウイグル自治区と香港の人々を抑圧してきた。市場開放に応じず、ひも付きの開発援助外交も展開してきた。そのせいで、米国にとっては幸いなことにどの周辺国も中国が軍事面や経済面で支配権を振るうことを望んでいない。

一方で、中国の影響力が強まり米国の地位が低下する中では、新政権であっても中国の周辺国に事を荒立てるような行動をとるよう説得するのは難しい。実際のところ、バイデン大統領が直面する難題は、アジア諸国に公然と反中路線を掲げるよう要求せずに、米国に対する信頼を回復させることにある。

この点でトランプ政権のアプローチは完全に失敗した。アジア各国の指導者たちは、米国が頻繁に実施した南シナ海に艦船を航行させる「航行の自由作戦」について、中国の勢力圏拡大に対抗する手段として内心では歓迎していた。ただ、同時に彼らは自分たちの国や地域の利益が米中対立の中で無視されたり、米国が中国と対抗するための駒として利用されたりしていると感じていた。

トランプ氏はアジアの同盟国に高飛車な姿勢で接した。韓国と日本に対しては、米軍の駐留経費のそれぞれの国の負担分を大幅に引き上げなければ軍の撤退に踏み切ると脅した。台湾では、トランプ氏の主な目的は台湾を利用して中国の鼻をあかすことだと懸念する人もいた。トランプ政権で国務長官を務めたポンペオ氏が(普段は気にもかけない)東南アジアの中規模諸国のことを思い出すのは、「共産主義中国」を悪者扱いするトランプ政権の思想戦への同調を求めるときだった。

中立的立場への無理解

東南アジアの各国政府は長年にわたって、大国が対立する中でリスクヘッジやバランスの維持に苦心しながら自国の自立性を守ってきた。それだけに、公然とどちらかの味方につくことは受け入れ難い。ポンペオ氏の行動は、その努力を台無しにしようとしたと受け止められた。

米国はアジアの安全保障上の利益を守ろうとする一方で、過去に多大な努力の末にアジアに根付かせ、地域に大きな恩恵をもたらした自由市場の原則にも痛手を負わせた。

トランプ氏は大統領就任から4日目の2017年1月23日、共和・民主両党の支持を得て、本来は米国を含む12カ国で発効するはずだった自由貿易協定の環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱する大統領令に署名した。一方、中国は別の枠組みである東アジアの地域的な包括的経済連携(RCEP)を推し進め、20年11月にはアジア太平洋地域の他の14カ国とともに署名した。経済面の指導力という面で、米国と中国はくっきりと明暗が分かれた。

バイデン大統領のチームはもっと巧みに振る舞うとみられる。スタッフには前大統領が毛嫌いしていた類いの博識なアジア専門家が顔をそろえている。各国の大使に公費での豪遊を目当てにするような党への献金者を充てるようなことをやめ、専門家や大物政治家を派遣するだけでも良い結果を生み出すだろう。

東南アジア諸国連合(ASEAN)の会合がいかに退屈なものであっても、米国の代表を送ることは重要だ。米国が出席していなければ中国はいとも簡単に外交戦で勝利できるからだ。

ソフトパワーで協力求めるべき

だが、米国がアジア地域への関与にもっと真剣に取り組んだとしても、サプライチェーン(供給網)や技術規格、投資制度の問題に関するアジアの議論の中心的プレーヤーとして返り咲くには大変な困難が伴う。バイデン氏はTPPへの復帰どころか、どのような貿易協定の締結も急がない考えを明らかにしている。

米国とアジア諸国の間には他の摩擦も生じるだろう。バイデン氏は人権を重視した外交政策を展開する意向だ。バイデン氏が中国の目に余る人権侵害を糾弾するのは正しいことだが、米国のいくつかの友好国は人権面で中国よりそれほど良いと言えない実態がある。こうした国の政府は批判の矛先が自分たちに向けられないかピリピリしている。

言い換えれば、アジアの多くの国々から見れば米国も中国と同様、理想的な同盟国ではないということだ。アジア諸国にとっては米中の両方とわたりあっていくしか選択肢がない。アジア諸国は傲慢な中国に対抗する手段として米国の関与を受け入れることには抵抗を感じなくなってきたが、両国の対立に引きずり込まれることは恐れている。

米国の技術革新や経済的な活力、開放性、道徳的な一貫性に引きつけられた結果、アジア諸国が自ら進んで米国との協力に向かうのが望ましい姿だ。米国はアジア諸国にとって、中国をにらんだ安全保障上の防護壁以上の存在になることを目指すべきだ。そうすれば、アジアは米国にとってより安全で繁栄した地域になるはずだ。

(c) 2021 The Economist Newspaper Limited. January 30, 2021 All rights reserved.

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