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シンガポール、滞在5年の長期ビザ 要件は月収300万円

【シンガポール=中野貴司】シンガポールは2023年1月、月収3万シンガポールドル(約300万円)以上を条件に、複数の企業での同時勤務を認め、通常より長い5年間の滞在を認める新たなビザ(査証)を導入する。国境をまたぐ高度人材の獲得競争で先手を打ち、新型コロナウイルスによる打撃からの経済回復にはずみをつける狙いだ。

シンガポールが新設するビザは、過去1年の固定給あるいはシンガポールで勤務後の固定給が3万シンガポールドル以上の人材が対象だ。取得要件のハードルが高いかわりに、滞在可能期間は通常の専門職ビザの2~3年より長くする。複数の企業で同時に働けるようになる。配偶者も「LOC」と呼ばれる承諾証を得れば、シンガポールで働くことができる。

高収入を得る能力がある外国人材に特別待遇を与え、働く場所としてシンガポールを選んでもらう狙いだ。

月収が3万シンガポールドルに達しなくても、需要の多い人材には5年間の長期滞在を認める。不足気味のテック人材、顕著な実績がある研究者、学者、スポーツ選手などだ。これには最先端の知識や技能を持つ人工知能(AI)の専門家やプログラマーらが該当するとみられている。

タン・シーレン人材開発相は8月29日「天然資源に恵まれないシンガポールにとって、人材が唯一の資源だ」と述べ、戦略的な外国人材の獲得が重要だと強調した。ビザ発給のための審査期間は現状の3週間程度から10営業日以内に短縮するとも発表した。企業がシンガポールの国外から迅速に人材を送り込めるようにする。

シンガポールがこうした「エリートビザ」を設ける背景には、各国が高度人材の獲得にしのぎを削っている現状がある。タイは9月、電気自動車(EV)や医療など重要分野に高度人材を求め、期間10年の長期ビザを導入。英国は5月、世界のトップ大学の卒業生を対象に就職先を事前に確保しなくても申請、取得できるビザを新設した。

シンガポールのリー・シェンロン首相は8月21日の年次演説で、英国の新たなビザを引き合いに「シンガポールには他国に後れを取る余裕がない」と述べ、危機感をあらわにした。

世界では、新型コロナの感染拡大で一時厳しく制限されていた国境を越えた移動も以前の状態にほぼ戻り、優秀な人材の国境を越えた移動が再び活発になってきた。シンガポールは国民のリスキリング(学び直し)にも力を入れている。海外の高度人材を受け入れ、その技能の移転を促すことで、国民の能力の底上げにつなげる。

一方、国内でも充足できる水準の海外人材については、むやみに増やすことはしない方針だ。

専門職向けビザの取得に必要な最低月収額は1日、それまでの4500シンガポールドルから5000シンガポールドルに引き上げた。要件の月収額は年齢が上がればあがるほど高まる。40代半ばの応募者は月収が日本円換算で100万円以上でないと、ビザは発給されない可能性が高い。

高所得の優秀な海外人材を厳選するシンガポール政府の思惑が透ける。

シンガポールの新方針は、高い報酬を得るグローバル企業の幹部社員や最先端のIT(情報技術)能力を持つ外国人材にとって、働き方の自由度が高まる利点がある。だが、給与水準で見劣りする日本企業にとっては、社員をシンガポールに派遣するうえで障害となるかもしれない。

シンガポールを東南アジアにおけるビジネスの中核拠点と位置づける日本企業は多いが、すでに現地が求める人材や給与水準の要件の達成に苦労するケースが目立つ。

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