ミャンマー政変2年、民間死者2900人 武力衝突なお

【ヤンゴン=新田裕一】ミャンマー国軍がクーデターで全権を握ってから2月1日で2年がたつ。国軍は31日、民主派の武装抵抗が続く現状を「異常な状況だ」とする声明を公表した。国軍の弾圧で民間人の死者は約2900人、拘束中の政治犯は1万3000人を超えた。各地で民主派との武力衝突が頻発し、経済も低空飛行が続く。
国軍は2月1日、新たな声明を発表するという。国軍総司令官に全権を委ねる「非常事態宣言」を延長し、8月までに行うとされてきた総選挙を延期する可能性が高い。
2020年の総選挙では民主化指導者のアウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)が圧勝したが、国軍は「不正があった」と主張し、クーデターを起こした。拘束した同氏の裁判では起訴19件すべてで有罪とし、禁錮・懲役計33年を言い渡した。22年7月には同氏の側近だった元議員ら4人に対する死刑を執行した。
現地の人権団体、政治犯支援協会によると、民間人の死者は1月30日時点で2901人。うち少なくとも850人は服役や尋問など身柄拘束中の死亡例だ。抗議デモの参加者やジャーナリストを含め服役・拘束中の政治犯は1万3700人にのぼるという。
国外に脱出した女性活動家のティンザーシュンレイイー氏は「(国軍が)選挙や少数民族和平と言ってもすべて噓。軍は国民の信頼を失っており、解体されるべきだ」と批判する。
最大都市ヤンゴンなどは国軍が統制するが、地方部では民主派の抵抗が続く。タイや欧米に亡命した議員らが発足させた「挙国一致政府(NUG)」は21年9月、武装抵抗を宣言。国民防衛隊(PDF)と呼ばれる抵抗組織も各地で国軍部隊にゲリラ攻撃を仕掛ける。

紛争を巡る国際調査団体「武力紛争発生地・事件データプロジェクト(ACLED)」によると、22年の武力衝突は約3700件と前年比67%増えた。民主派は少数民族の武装勢力から武器や訓練を提供されており、改造ドローンで国軍基地に爆弾を投下するなど抵抗は激しさを増す。
国軍は民兵組織も動員し、PDFが潜伏する村を空爆や焼き打ちにしている。PDFの関係者は「(村々から)金銭的な援助を得にくくなってきたのは事実」と話す。事実上の内戦状態に陥ったことで国内避難民が急増し、1月までの累計で124万人に達した。
経済は落ちこんだ。世界銀行は22年度(21年10月〜22年9月)の経済成長率を前年度比3%とみており、21年度のマイナス18%から回復は鈍い。クーデター前の19年度に6.8%の高成長を実現し「アジア最後のフロンティア」と呼ばれた面影はない。イメージ悪化や低成長を嫌った外資企業の撤退も相次ぐ。
国軍は総選挙を実施して形だけの民政移管をめざしてきた。国軍トップのミンアウンフライン総司令官は1月4日の独立記念日の式典で「政府は自由で公平な選挙を実施するために全力を尽くす」と語った。国軍の支配に正統性を持たせ、外国の批判をかわす思惑がある。
1月26日には新たな政党登録法を施行した。活動が複数の地域・州にまたがる政党について、選挙で半数以上の選挙区に候補者を立てなければ解党する。国軍系の連邦団結発展党(USDP)に対抗できる政党が育つのを防ぐ狙いとみられる。
ミャンマー国軍は2021年2月1日、全土に非常事態を宣言し、国家の全権を掌握したと表明しました。 アウン・サン・スー・チー国家顧問率いる政権を転覆したクーデターを巡る最新ニュースはこちら。