中国、感染拡大下の「開国」 ゼロコロナ転換に警戒も

【北京=川手伊織】中国は、新型コロナウイルスの防疫措置として厳しくしていた出入国規制の正常化に動き出した。入国時のホテル隔離を撤廃し、ビジネスや留学目的での外国人の来訪を促す。中国人の海外旅行も段階的に再開させる方針だ。「ゼロコロナ政策」の事実上の終了だが、中国国内では感染が急拡大している。日本など周辺国は警戒を強めている。
習近平(シー・ジンピン)指導部は、感染を封じ込めるゼロコロナ政策に固執してきた。10月の共産党大会後も堅持したが、11月下旬にゼロコロナへの抗議デモが広がると一転した。大規模なPCR検査をなくし、省をまたぐ移動の規制を緩めた。抗議デモから1カ月でゼロコロナ政策の大半を撤回した。
中国政府は26日夜にコロナ規制の追加緩和策を発表した。コロナ流行初期から入国者に強制してきたホテル隔離を2023年1月8日から取りやめる。現在は原則、5日間の強制隔離と3日間の自宅隔離が義務付けられている。
1月8日からは、入国前48時間以内のPCR検査での陰性証明を提示すれば中国に入国できる。緩和策の発表文には、工場生産の再開に必要な技術者やビジネスマン、留学生などに「ビザ(取得)の便宜を図る」とも記載した。

ゼロコロナ政策が妨げてきた人材の往来を本格的に再開させ、外資企業の対中投資を促す。米国は先端半導体の輸出規制など対中包囲網を強めているが、米欧日などと経済的な結びつきを維持する思惑もありそうだ。
人材の往来を正常化させるには航空会社などの国際旅客便の増加がカギを握る。中国政府は26日の緩和策で、国際旅客便に関する規制を撤廃することも発表した。中国人の海外旅行も「秩序を持って回復させる」と指摘した。コロナの流行で滞っていたパスポートの更新手続きなどが動き出す可能性がある。
中国政府は20年のコロナ流行をうけ、国際旅客便の数を厳しく制限してきた。日本の国土交通省によると、22年10月下旬~23年3月下旬に中国本土の航空会社が日中間で運航する旅客便は週27便(計画ベース)にとどまる。同1000便超あった19年10月下旬~20年3月下旬の2%だ。
中国政府によると、19年に海外旅行に出かけた中国人は延べ1億6921万人に上った。中国への旅行客は1億4531万人だが、香港、マカオ、台湾からの訪問客が8割近くを占めた。海外旅行など中国人の出国需要が膨らめば、航空会社が国際旅客便を増やしやすくなる。

ただ、足元では新型コロナ対策の大幅な規制緩和で感染が急拡大している。伊藤忠総研の玉井芳野・客員研究員は「中国人の海外旅行は感染状況を見極めつつ緩和することになり、現実的には23年4~6月以降、少しずつ回復に向かうのではないか」と語る。
内陸部の四川省は24~25日、約16万人に調査を行い、約64%が陽性だったと発表した。同省の人口は約8400万人で、数千万人が感染している可能性がある。
上海市のIT(情報技術)企業が運営するサイト「都市データバンク」は、大手検索サイト「百度(バイドゥ)」がまとめたキーワード検索数のデータを使い、都市ごとの感染状況を推計。25日までに北京市では人口の約56%が、上海市では約38%が感染したと見込む。
死者数も増加しているもようだ。百度のデータベースによると「葬儀場」の検索数が急増した。英医療調査会社エアフィニティは21日のリポートで「1日当たりの死者は5千人を超えた可能性がある」と指摘した。

衛生当局によると、中国でコロナワクチンを2回接種した人は13日時点で60歳以上で約87%、80歳以上で約66%にとどまり、日米よりも低水準だ。感染抑え込みは容易ではない。
日本政府は27日、中国からの渡航者への水際対策の強化を発表した。30日から全ての渡航者に感染検査を義務付け、陽性で症状がある場合は原則7日間の隔離措置をとる。中国からの直行便の受け入れは成田、羽田、関西、中部の4空港に限定する。
在中国米国大使館は、15日にビザの発給業務を一時停止した。感染拡大による業務上の影響を理由としているが、米国への感染者の流入を警戒しているとの見方もある。
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