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中国、人工中絶に規制論 少子化対策との見方も

中国で人工中絶の規制論が浮上している。年間の手術人数が900万人前後で高止まりし、主要国で突出しているためだ。「手術は無痛で簡単に終わる」といった認識で中絶への危機意識が乏しいことから、手術を複数回受ける未婚の若い女性も少なくないという。国は女性の身体を守るためと説明するが、少子化が加速し人口減少が間近に迫るなか、庶民からは「中絶規制は出生数の増加が狙いではないか」との疑問が出ている。

「未婚者の中絶に介入する特別行動を実施する」。政府の産児制限に関わってきた中国計画出産協会が、1月末に公表した2022年の重点業務に、こんな一文が盛り込まれた。国務院(政府)が21年9月に発表した女性の地位向上に関する長期計画も「医学的に不要な人工中絶は減らす」と明記した。

中絶数の割合、米国や日本より高く

中絶数の高止まりを社会問題として捉えているためだ。国家衛生健康委員会の最新統計によると、20年は896万人だった。15~49歳の女性人口と比べた割合は2.78%に及んだ。時期は異なるが、米国(13年)の1.17%や日本(16年)の0.65%、ドイツ(15年)の0.57%よりはるかに高い。

中国のスーパーでは、レジ近くの棚にコンドームを陳列して販売する店舗も多い。避妊の意識が高いように見えるが、なぜ中絶が多いのか。

政府関係者は「中絶手術は無痛で簡単とうたうネット広告が多く、中絶が身体にもたらす危害を軽視している大学生や専門学生が少なくない」と語る。計画出産協会の王培安常務副会長は「中絶手術を受ける未婚女性は毎年400万人近くいる。このうち2割は複数回の手術経験がある」と明かす。

中国は1980年ごろから一人っ子政策を本格化させた。そのため、82~92年はほぼ毎年、中絶数が年1000万人を超えた。人口増加を抑えるため、中絶を推奨する風潮さえあった。かつては学校内やバス停のベンチでも、中絶手術を行う病院の広告がみられた。長年の産児制限が、中絶手術への抵抗感を弱める遠因だとみる専門家もいる。

人々の中絶に対する考え方のほか、中国都市部の経済環境も影響を及ぼしている。

「子育てで両親の助けを借りられないため、産めなかった」。北京市のIT(情報技術)企業に勤める王麗さん(28、仮名)は3年前の春節(旧正月)、河南省の実家に帰省した時に妊娠した。出産したいと思ったが、最後は中絶を選ばざるを得なかった。王さんの両親も実家を離れて、別の都市で生計を立てているためだ。

中国の都市部では夫婦共働きが一般的だ。家賃をはじめ生活コストが高いためだ。子ども手当のような地方政府の財政支援も乏しい。女性は子を産んでも、できるだけ早く職場に戻り、子育てで親の援助を受ける例が多い。都市部の家族事情も中絶が減らない一因だ。

中国政府が今、膨大な中絶の抑制に乗り出したのには理由がある。少子化に歯止めがきかず、総人口の減少が間近に迫っていることへの危機感が根底にあるからだ。計画出産協会の王氏は「青少年の性と生殖に関する健康問題は楽観できず、将来の民族の競争力に重大な脅威となっている」と語る。

昨年の中絶数は推定900万人前後、出生数に迫る

2021年の中絶数は公式データがないが、中国人民大学の楊菊華教授は、900万人前後と分析する。一方、出生数は前年比12%減の1062万人だった。習近平(シー・ジンピン)指導部は1組の夫婦に3人目の出産を認めたが効果は乏しく、1949年の建国以来で最少となった。出生数に対する中絶数の割合は85%程度で、4年間で30ポイントも上がった。

「急速な少子化への懸念も耳にしますが、中国は中絶問題を解決できれば、少子化もそれほど深刻ではなくなりますよ」。関係者によると、中国政府の高官は昨秋、北京市で外国要人と面会した際に断言した。

前述の政府関係者は高官の意図を「中絶手術を規制して出生数の増加につなげようということだ」と解説する。「母胎が危ないといった医学的に必要な中絶を除き、医療機関が手術の受け付けを絞り込むよう指導していく可能性はある」と指摘する。

総人口は2022年にも減少に転じる。長期的な人口減少は中国の潜在成長率を押し下げ、米国との覇権争いに影を落とす。社会保障制度の整備が道半ばで、急速な高齢化は社会不安を強めるリスクとなりかねない。人口問題への焦りが中絶規制論を生み出したわけだが、インターネット上の庶民の反応は冷めている。「出産抑制の次は中絶抑制か。意味ないよ」

(北京=川手伊織)

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