インド、ロシアでミサイル演習 年内導入に100人派遣へ
【ニューデリー=馬場燃、モスクワ=小川知世】インドはロシアで地対空ミサイルシステム「S400」の演習に乗り出す。印軍は年内にロシア製のS400導入を予定しており、約100人を派遣して操作手法を学ぶ。米国はかねてインドによるロシア製兵器の購入に反発を示しており、バイデン新政権の不興を買う恐れがある。
インドのモディ首相は2018年10月にロシアのプーチン大統領と会談し、S400を購入することで合意した。印メディアによると、5基を総額54億ドル(約5600億円)で取得する計画で、19年に一部を払い込んだ。
タス通信によると、ロシアのクダシェフ駐印大使は19日、印軍が約100人をロシアに派遣し、ミサイル購入の契約が近く実行の段階に移ると言及した。「ロシアに軍を派遣して訓練を実施することは相互の忠誠を示す」と強調。インドは年末までにまず1基を導入し、数年かけて整備を進めるとみられる。
S400は最大射程が数百キロメートルあり、弾道ミサイルを迎撃する機能を備える。インドは20年5月から中国と国境係争地域でにらみ合いを始め、その翌月に45年ぶりの死者を出した。中国と対立が長期化したことを背景に軍備増強を急いでいる。印外務省はS400導入について「安全保障上の国益に基づいて整備する」との見解を示す。
ロシアはインドと軍事協力を進め、米印関係にくさびを打つ狙いがある。反体制派を巡る人権問題で米欧が対ロ批判を強めるさなかにインドが計画通りに取引を進めれば、国際的な孤立感を緩和できる。ロシアには最大の貿易相手国である中国への過度な依存を避けるため、インドとの取引によってバランスをとる思惑もにじむ。
もっとも、インドのS400導入は発足したばかりの米バイデン政権との関係を冷やす懸念がある。ロシアに制裁を科す米国のトランプ前政権がインドに取引の再考を何度も促してきた経緯があるためだ。米国はすでにS400を巡り、トルコへの制裁に動いた。
トルコは19年7月からS400導入を始めた。米国は米欧の軍事同盟にあたる北大西洋条約機構(NATO)に加盟しているトルコから防衛上の機密が流出する恐れがあると反発していた。「ロシアとの防衛分野での取引は容認しない」と警告を繰り返し、20年末に対ロシア制裁法に基づく対トルコ制裁の発動を実際に決めた。
インドは伝統的に兵器の輸入をロシアに頼ってきた。ただ最近は南アジアにも進出する中国をけん制するため、「自由で開かれたインド太平洋」を合言葉に、米国、日本、オーストラリアとの軍事協力に力を入れている。
米国とは20年10月に外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)を開き、衛星情報の共有などで新たに合意した。米国が強みとする衛星情報などを使い、国境係争地域で中国の兵士の位置や軍事施設に関する正確なデータを瞬時に共有することを狙っている。
兵器の利用は国家の機密情報が伴う。米国としては敵視するロシアの兵器を関係強化に努めているインドが導入するのは「間違いなく歓迎しない」(印軍事アナリストのサミュエル・ラジブ氏)との見方がある。S400導入がバイデン大統領の対印政策に影響を及ぼす可能性は否定できない。
インドでは19~20年にイスラム教徒を排除する政策で大規模なデモが起きた。印政府は人権問題を重視するバイデン氏が対印政策をどう打ちだすか気にかけている面もあり、ロシア製兵器の導入が余計な火種になることは避けたい状況だ。

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