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スーチー氏有罪判決 ミャンマー国軍、民主派排除強める

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【ヤンゴン=新田裕一】ミャンマーの首都ネピドーの裁判所は6日、2月の国軍のクーデターで身柄を拘束された民主化指導者アウンサンスーチー氏に対し、禁錮4年の判決を言い渡した。同氏は10件以上の罪で刑事訴追されているが、判決が出るのは初めて。一方で国軍は同日夜、刑期を半分の2年に短縮する方針を明らかにした。政界からスーチー氏を排除しつつ、国内外の批判を軽減する狙いとみられる。

政変で全権を掌握したミンアウンフライン国軍総司令官が減刑を指示した。国軍報道官や裁判関係者によると、6日に判決が出たのは2件。1件は公衆の不安をあおる言論活動を禁じる刑法違反だ。

スーチー氏が党首を務める国民民主連盟(NLD)が政変後、国軍のクーデターが違法であり命令や通達は無効だとする声明などを出したことが罪に問われた。弁護側は「党が声明を公表した時にはスーチー氏は身柄を拘束されており、関与しようがない」と反論していた。

もう1件は自然災害管理法違反で、2020年11月の総選挙に際し、有権者に手を振ったことなどが新型コロナウイルスの感染防止策違反とされた。判決ではそれぞれの罪で禁錮2年ずつとされたが、国軍は合計で2年に減刑する。

スーチー氏が率いたNLD政権で大統領を務めたウィンミン氏にも同様の罪状で、合計で禁錮4年の判決が下されたが、2年に減刑される。ネピドー市長だったミョーアウン氏には禁錮2年の判決が出た。

国軍のゾーミントゥン報道官は、スーチー氏らは刑務所には移されず「(軟禁中の)現在の場所に留め置かれる」と述べた。控訴は可能だが、上級審で判断が覆る可能性は低い。

スーチー氏はクーデター後、小型無線機を無許可で輸入・使用したとして輸出入法や電気通信法違反などの微罪で訴追された。その後、最高刑が禁錮14年の国家機密法違反や同15年の汚職防止法違反など多数の重罪も加わり、これまでに11件で公判が始まった。最高刑の合計は禁錮100年を超す。同国では刑罰は合算されるため、国軍の支配が続く限りスーチー氏の政界復帰は絶望的だ。

今後も罪状は追加される可能性が高い。政変後に国軍が再編した選挙管理委員会は11月中旬、スーチー氏ら16人を20年の総選挙での不正に関与した疑いで告発。汚職防止委員会は同月末、スーチー氏らがヘリコプターのリースや購入の契約時に規則を無視したとして、新たな汚職の容疑で警察当局に捜査を求めた。

スーチー氏やウィンミン氏の裁判は首都ネピドーの政府施設内に特設された法廷で行われ、審理は非公開。ウィンミン氏が10月、クーデター当日に大統領の辞任を迫られたと証言した後、当局は弁護団が報道機関や外交団と接触することを禁じた。裁判の内容は断片的にしか伝わっておらず、密室裁判となっている。

国軍はNLDが大勝した20年の総選挙を無効と宣言し、23年8月までに再度実施する方針だ。有罪判決を受けて収監されると、その間は議員に立候補したり閣僚に就任したりすることはできない。政変で全権を掌握したミンアウンフライン総司令官は「過大な個人崇拝は社会の分断を生む」として、国民の圧倒的支持を集めるスーチー氏を批判している。

スーチー氏以外のNLD幹部への長期刑の判決も相次ぐ。NLDの中央執行委員会メンバーで南東部カイン州首相を務めたナンキンツウェミン氏は汚職防止法違反で禁錮75年、同党顧問のウィンテイン氏は扇動罪で禁錮20年の判決を受けた。NLDによると11月末時点で党員430人以上が当局に拘束されている。拘束中や解放の直後に死亡した人も13人いる。

国軍がNLDの解党にまで踏み込むかは流動的だ。選管は5月、NLDの解党を示唆したものの、いまだに具体的な手続きには入っていない。ゾーミントゥン国軍報道官は11月下旬の記者会見で「一部のNLDのメンバーは平和的な解決策を求めている」と述べた。中枢幹部を欠いたNLDの弱体化は必至で、形式的にNLDの存続を認める可能性もありそうだ。

だが、スーチー氏に対する有罪判決を機に、欧米などの国軍への圧力は一層厳しくなる可能性が高い。東南アジア諸国連合(ASEAN)の首脳級の会議にミンアウンフライン氏を招待しないことが常態化しており、地域内でも孤立が深まる。

ミャンマーでは国軍による民主派弾圧が続く。最大都市ヤンゴンでは5日、抗議デモをしていた人々の後方から国軍の車両が突進し、数人を跳ね飛ばした。現地報道によると突進と銃撃で市民5人が死亡した。市民の一部は武装闘争を掲げており、混乱が長期化する懸念がある。

欧州や国連、一斉に非難

ミャンマーの裁判所が6日、民主化指導者アウンサンスーチー氏に有罪判決を下したことに対し、一斉に非難の声が上がった。

ブリンケン米国務長官はスーチー氏への判決について「民主主義と正義への侮辱だ」と非難し、「スーチー氏をはじめ、不当に拘束されているすべての人々を解放するよう強く求める」と強調した。英国のトラス外相も「自由と民主主義を抑圧しようとするひどい試みだ」と批判した。

欧州連合(EU)の外相に当たるボレル外交安全保障上級代表も「政治的な動機による判決だ」と強調。「民主的に選ばれた指導者を排除しようとしている」と国軍を批判した。バチェレ国連人権高等弁務官は「判決はクーデターへの拒否反応を深めるだけだ」と指摘、スーチー氏の即時解放を求めた。国際人権団体のアムネスティ・インターナショナルやヒューマン・ライツ・ウオッチなども非難声明を出した。

一方、中国外務省の趙立堅副報道局長は6日の記者会見で「憲法と法律の枠組みのもとで相違を解消し、ミャンマーの国情に適した民主的移行プロセスを持続的に推進することを心から希望する」と述べるにとどめた。

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ミャンマー国軍は2021年2月1日、全土に非常事態を宣言し、国家の全権を掌握したと表明しました。 アウン・サン・スー・チー国家顧問率いる政権を転覆したクーデター。なぜ起きたのでしょうか。 最新ニュースはこちら。

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