大宇造船買収、韓国財閥ハンファが優先交渉 2000億円で

【ソウル=細川幸太郎】韓国財閥ハンファグループが、造船世界3位の大宇造船海洋の買収に乗り出す。大宇造船の再建を主導する政府系の韓国産業銀行が26日に優先交渉者にハンファを選んだ。買収金額は2兆ウォン(約2000億円)となる見通し。防衛装備大手のハンファが造船事業を取得し、韓国政府とともに防衛装備品の輸出拡大につなげる。
大宇造船が第三者割当増資を実施し、ハンファグループ傘下の複数企業が引き受ける形で大宇造船株の49.3%を取得する。買収完了後は、産業銀行の持ち分比率は現在の55.7%から28.2%に低下する見通しだ。

産業銀行は「公正性の確保のため」とし、買収予定者と仮の契約を結んだ後に、入札を通じて対抗提案を募る「ストーキング・ホース」と呼ぶ売却方式を採用する。10月17日までにハンファの買収案を金額などで上回る提案を募る。応募がなければハンファによる買収手続きを進め、対抗案があればハンファに条件を引き上げるかどうかを確認するという。
産業銀行側は年内に本契約を締結し、各国の独占禁止法当局の審査を経て2023年6月までに買収手続きを完了させる計画だ。

産業銀行の姜錫勲(カン・ソクフン)会長は26日の記者会見で「造船事業を持たない第三者の投資家が大宇造船問題解決への唯一の解」とハンファの提案を歓迎した。優先交渉者を決めた上で対抗提案を募ることについて「この案がより良い条件を引き出し、国民の損失を最小限に抑えることができる」と合理性を主張した。
ハンファ側も報道資料を通して「大宇造船の買収で陸海空の統合防衛産業システムを確立できる」と買収の意義を強調した。「当社の中東や欧州、アジアの顧客基盤を共有することで大宇造船の潜水艦や戦闘艦の輸出拡大に貢献できる」とした。

財閥準大手のハンファは「韓国火薬」の略称で、祖業として火薬製造を手掛けてきた。1980年代以降に化学や流通、生命保険、太陽光パネルなど買収によって規模を拡大し、総売上高7兆円の韓国7位のグループとなった。
今回の大宇造船の買収で造船業に進出し、艦艇事業を取得する。韓国政府は防衛装備品の輸出拡大に注力しており、ハンファも事業拡大の好機とみて大宇造船の取得に動いた。
株式市場はハンファによる買収を歓迎。26日の韓国取引所では大宇造船株は前週末比で一時18%急騰し、終値は13%高で引けた。大幅な第三者割当増資は株安を誘うこともあるが、ハンファ傘下となることで「活発な投資によって競争力を高められる」(SK証券の柳承佑=ユ・スンウ=アナリスト)との期待で買いが膨らんだもようだ。
大手財閥の大宇グループは97年のアジア通貨危機後に解体され、大宇造船は産業銀行傘下で再建を目指すことになった。08年にはハンファが6兆ウォン以上で大宇造船を買収することで一度合意したものの、金融危機のあおりで資金繰り懸念が生じ、ハンファが買収計画を撤回した経緯がある。
その後も競合先の現代重工業が19年に大宇造船を買収することで合意したが、統合会社の液化天然ガス(LNG)運搬船のシェア上昇を理由に欧州当局が許可せず22年1月に頓挫した。
韓国政府と産業銀行は大宇造船のLNG船やコンテナ船などの商船部門と、防衛艦艇部門を分離してそれぞれ売却する分割売却案を模索していた。ただ労働組合が強く反発したことで方針を転換。14年前に一度、買収契約を結んだハンファに大宇造船を託す見通しだ。
造船世界3位の大宇造船の売却は、業界の関心事だった。韓国と中国、日本の造船各社が激しい受注競争を繰り広げる中で業界再編が進めば過当競争が和らぐといった期待もあった。ただ、造船部門を持たないハンファの買収によってプレーヤー数は減らず「競争環境の改善にはつながらない」(業界関係者)との落胆の声もあがっている。