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ウイグル 米中の新たな火種に(The Economist)

 

The Economist

トランプ前米政権で国務長官を務めたポンペオ氏は退任間際の19日、中国政府による新疆ウイグル自治区における少数民族ウイグル族らへの弾圧を国際法上の犯罪となる「ジェノサイド(民族大量虐殺)」に認定すると発表した。バイデン新大統領が次期国務長官に指名したブリンケン氏もこれに同意すると明言している。

トランプ氏は米大統領在任中、新疆ウイグル自治区でのウイグル族らの収容施設の建設に賛同する発言をしていたとされる=ロイター

米国は大統領が交代する先行きを見通しづらい時期に、中国が内陸部で行っている残虐行為にどこの国よりも最も厳しい表現を用いた。これを受けてバイデン政権と中国との間で緊張が高まり、2国間関係がさらに困難な状況に陥りそうだ。

ポンペオ氏による「ジェノサイド」という文言の使用は、正式な法的判断を示すものではない。イスラム教徒が多数を占めるウイグル族への中国の弾圧に対して、制裁を発動するためのさらなる行動をバイデン氏が義務付けられるわけではない。

トランプ前政権はすでに中国の様々な政府機関や企業、当局者に対して経済的な制裁を科しているほか、査証(ビザ)の発給を制限している。新疆ウイグル自治区トップの陳全国・共産党委員会書記も制裁の対象に含まれる。同氏は党政治局員だ。今月には、同自治区の主要産品である綿製品とトマトや関連製品の輸入を米国は禁じた。生産するにあたり、中国がウイグル族に強制労働を課した疑いがあるためだ。

しかし、ポンペオ氏のジェノサイド認定発言とブリンケン氏の同意は、米国のウイグル問題を巡る姿勢の変化を示している。同自治区では、ウイグル族を含むイスラム教徒100万人以上が「過激思想を矯正」するために強制的に施設に収容されている(過激思想とは実際には、民族の文化や教義に誇りを示すことを指す場合が多い)。そしてウイグル族の人口増加を抑制するため、女性には不妊手術や中絶手術を強要している。

「ジェノサイド(民族大量虐殺)」には広義の解釈も

国務省の法律家らは、「ジェノサイド」が適切な文言かどうかについて協議をした。ジェノサイドは辞書では通常、人々や民族の大量虐殺と定義されており、新疆ウイグル自治区で中国による大量虐殺があったという訴えはない。だが、国連総会で採択された「集団殺害罪の防止及び処罰に関する条約(ジェノサイド条約)」の定義はかなり幅広く、殺害の事実がなかったとしてもジェノサイドに当たることがある。

たとえば「出生を防止することを意図する措置」は国家的、民族的、人種的または宗教的な集団の「全部または一部を破壊する」意図をもって行われる限り、ジェノサイドに当たる。したがって、そうした意図をもって集団の一員に「深刻な精神的危害」を加えることもジェノサイドの一種ということになる。

世界各国の政府は長い間、ジェノサイド条約の定義を字義通りに解釈することには消極的だった。おそらくは、該当する事例がかなり多くなるためだろう。米国務省は従来、辞書の定義に該当する事例のみをジェノサイドとみなし、ルワンダの少数派ツチ族の大虐殺や過激派組織「イスラム国」(IS)による少数派ヤジディ教徒の虐殺をジェノサイドとしていた。

しかし、国務省当局者によると、新疆ウイグル自治区でどれほど不妊手術が強制されているかが2020年に明らかになり、国務省の一部では「ジェノサイド」と呼ぶのが適切であると判断されるようになった。

ポンペオ氏はその判断を公表する日として、退任前に丸1日執務に当たる最後の日を選んだ。つまり、その後の事態に自身で対処する必要はなく、日和見主義との印象を発言の受け手に与えた。ポンペオ氏は24年の大統領選に出馬する可能性がある。

中国は猛反発するがバイデン新政権を批判せず

中国は猛反発している。米国の「常軌を逸した」行動に対して21日、ポンペオ氏らトランプ政権の幹部など28人に制裁を科した。中国本土や香港、マカオへの入境を禁じ、中国での経済活動も制限した。

中国外務省の華春瑩報道局長は、ポンペオ氏が「笑いものや道化」になっていると断じたが、新政権への批判は避けた。中国政府内部では、バイデン氏が人権問題ではないにせよ、対中強硬路線を見直して米中関係に落ち着きを取り戻してくれるのではないかと期待しているのかもしれない。

それでも、米国がジェノサイドという言葉を使用した今、他の西側諸国も米国にならうかどうかが焦点になる。引き続き「人道に対する罪」といった言葉を使うことを選ぶ国もあるだろう。ポンペオ氏も使ったことがあり、中国側にとってはとうていやり過ごすことはできない。中国政府は現地の実態に即して議論するよりは、言い回しについて議論したほうがましだと考えているのは間違いない。

世界がどんな言葉を使うにせよ、ウイグル族に対する中国の弾圧を止めさせるのは難しい。カナダと英国は今月、中身が薄いところはあるものの、強制労働の関与が疑われる商品の輸入を禁止する措置を講じると発表した。だが、米国に追随して中国に制裁を科す国はなお出ていないし、中国の責任を問おうとした国際機関もない。

多国籍企業の多くは沈黙を守りつつ、サプライチェーンから新疆ウイグル自治区を外そうとしているものの、その点について自社の公式の立場を明確にしている企業はほんの一握りだ。欧州連合(EU)が昨年12月に中国と締結することで大筋合意した投資協定では、中国は強制労働を禁じる国際労働機関(ILO)の関連条約の批准を目指すと形ばかりの約束をするにとどまっている。

バイデン氏がウイグル族への弾圧阻止に動くのかが焦点に

バイデン氏は、中国にウイグル族への弾圧を止めるようより強く求めていく可能性があるが、トランプ氏はこの問題には関心がなかったようだ。ジョン・ボルトン元大統領補佐官(国家安全保障担当)によると、トランプ氏は19年に中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席に対して、ウイグル族の収容施設を建設することは「正しいことなので進めるべきだ」と言ったという。

米国はトランプ政権の下で国連人権理事会から脱退したが、バイデン政権で復帰するとみられている。人権理事会ではこれまで、新疆ウイグル自治区における中国の弾圧に対して決議案が提出されたことはないが、バイデン氏が後押しすればそれも変わる可能性がある。

トランプ前政権のムニューシン財務長官は、通商問題に人権問題を持ち込むことに対して消極的だった。ポンペオ氏の下で働いていた関係者によれば、国務省は中国の当局者と政府機関など計10程度の人物と団体に制裁を科すよう提案していたが、財務省は米中関係への影響を懸念して発動しなかったという。

制裁案の対象には、新疆の治安などを主管する新疆政法委員会も入っていた。トランプ政権は強大な力を持つ同委員会に制裁を科さなかったが、バイデン政権下では財務省も意見を変える可能性がある。

北京では22年2月に冬季五輪が開催される。人権団体は大会へのボイコットを求め、米上院には開催国の変更を求める議員もいる。バイデン政権はこうした要請に対する態度を明らかにしていないが、いずれにしても、五輪参加や現地観戦を見送る選手やファンが出てくるかもしれない。

(c)2021 The Economist Newspaper Limited. January 23, 2021 All rights reserved.

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