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印ネット通販、外資を阻む政治の壁(The Economist)

The Economist

理屈の上では、インドのネット通販市場での覇権争いは米国のウォルマートとアマゾン・ドット・コムという世界の2大小売企業が競いながら、インド最大手小売業者を傘下に抱える複合企業リライアンス・インダストリーズと対決する純粋に商業的な競争のはずだ。だがそこには第4の勢力が関与している。モディ首相と、与党インド人民党(BJP)を支持する膨大な数の零細小売業者だ。

2020年1月、アマゾンのジェフ・ベゾスCEOの訪印に際して、ニューデリーで反アマゾンを訴えるインドの商業関係者たち=ロイター

小規模商店主たちは国粋主義で、当然リライアンス側につく。同社を率いるのはインド随一の富豪ムケシュ・アンバニ氏。ビジネス、政治、排他主義、富豪が混在した戦いが繰り広げられている。

アンバニ氏が率いる小売り最大手リライアンス・リテールが電子商取引(EC)プラットフォームを立ち上げたのは2020年。それまで、インドのネット通販市場ではアマゾンと、ウォルマート傘下のフリップカートが明らかに主導権を握っていた。モディ政権の外資に対する規制もあり、ネット通販市場は今も未開拓な面があるが、その中で両社はテクノロジーや物流、決済システムに積極的に投資し、それぞれ約35%の市場シェアを握った。

印ネット通販の先駆者に逆風

今、新型コロナウイルスの感染が再拡大するなかで外資のネット通販企業が不利になる可能性が高まっている。ロックダウン(都市封鎖)が再び実施されれば、食料品のネット販売大手「ジオマート」を傘下に抱えるリライアンス・リテールが有利になる。そのうえ、政府が外資のネット通販企業に対する規制を強化しようとしているのだ。

アマゾンとフリップカートが自社の利益を守るためには、政治的に動く必要が出てくる。これは、よい状況とはいえない。国際企業が中国以外の市場に投資と成長の機会を求める中で、アジアのもう一つの巨大市場であるインドで、政府が中国と同様に外資を冷遇する姿勢を強めているのだ。

モディ氏は14年、首相に就任したが、インドでネット通販事業を手がけようとする外資企業には、その前から厳しい規制が課されてきた。18年にウォルマートがフリップカートを160億ドル(約1兆7200億円)で買収すると、外資規制は一段と強化された。

一段と高まる参入障壁

なかでも2つの外資規制が際立っている。まず、外資企業はインドで在庫を保有したり、自社製品を販売したりすることを禁止されている。アマゾン、ウォルマートは他の市場ではどちらも手がけているが、インドでは自社のプラットフォームを、他の買い手と売り手が出会う「マーケットプレイス」として運用することしか認められていない。

もう一つは、プラットフォーム上の有力な出店者への出資に対する制限だ。出資先に事実上、外資企業の代理で販売させることを防ぐためだ。リライアンス・リテールは20年に米投資ファンド、シルバーレイクなどの外国企業から総額60億ドルの出資を受けているが、これらの規制からは除外されている。米投資銀行ジェフリーズで、リライアンス社を高評価するアナリストは、同社はインド企業として「規制の面で有利」とみている。

3年前に導入された規制には、アマゾンとフリップカートにとって抜け穴が残されていた。だが、両社への包囲網は狭まっている。現在検討されている新しい外資規制ではその抜け穴が塞がれそうなうえ、有力な出店者への出資比率の引き下げや出資解消が求められる可能性もある。両社とも独禁法違反の疑いでインド競争委員会(CCI)の調査も受けている。両社は調査には根拠がないと訴えている。

リライアンス・インダストリーズはインド小売り2位フューチャー・グループの流通関連事業を34億ドルで買収する方針だが、アマゾンが差し止めを求めて訴訟を起こしている。アマゾンはフューチャーのグループ企業に出資しており、アマゾンの同意なく株式を売却することはその出資に際して結んだ契約に反すると主張している。

インドの最高裁が近く判決を下す見通しだが、買収が認められれば、アンバニ氏がインド国内で店舗とネットを融合する「オムニチャネル」戦略を推進する体制が整う。既存店3500店にフューチャーの約1700店が加われば、ジオマートにもメリットがある。これに対し、外資のアマゾンとフリップカートには、実店舗とデジタルチャネルの融合はほとんど認められていない。

政権にすり寄る内外流通業者

アマゾンとフリップカートはインドでは長年、目立った動きを控えてきた。だが、今は違う。フリップカートは今月、インドの複合企業アダニ・グループ傘下の物流企業アダニ・ロジスティクスと提携した。アダニ・グループを率いるゴータム・アダニ氏は近年、社会インフラやデジタルインフラに相次いで投資し、莫大な財を築いている。

フリップカートは同社と組んで巨大倉庫とデータセンターを建設する計画だが、モディ氏の支持基盤であるグジャラート州との関係が深いアダニ・グループと手を組むことに政治的な思惑を見て取る向きは少なくない。フリップカートは年内の新規株式公開(IPO)を検討しており、国内で有力な支持を確保したい事情がある。米資産運用会社のアライアンス・バーンスタインはフリップカートの企業価値を400億~500億ドルと見込んでいる。

声高に外資に反発するBJP支持者を味方に付けたいのはアマゾンも同じだ。同社はブランド力を生かして小規模の出店者を募っている。同社創業者で世界一の富豪のジェフ・ベゾス最高経営責任者(CEO)は20年1月に大々的にインドを訪問したが、モディ氏らからすげない対応を受けた。それでもベゾス氏は、インドの中小零細事業のデジタル化支援に10億ドルを投じると表明した。次期CEOに内定しているアンディ・ジャシー氏は4月、インドの小規模企業に投資する2億5000万ドル規模のファンドの設立を発表し、インドへの投資姿勢を一段と強めている。いずれもモディ氏が掲げる「自立経済圏」の構想に協力し、インドの人心を味方に付けるための投資だ。

リライアンス独占はインドに不利益

アマゾンとウォルマートがインドで苦しんでも、両社のために涙を流す人はあまりいないだろう。両社はインド以外では情け容赦ない事業展開ぶりで、他社を寄せ付けない強固な堀をつくって揺るぎない地位を築いている。米コンサル大手ベイン・アンド・カンパニーのアルパン・シェス氏は、「ウォルマートとアマゾンの存在は永遠」という。

悲嘆すべきはむしろインド自身だろう。リライアンスに現状以上の保護策は必要ない。ジェフリーズによれば、インド小売業トップの同社の売上高は2位以下の地元小売企業10社の合計を超えている。ジオマートが優位に立つ食品のネット販売市場は「キラナ」と呼ばれるインドの零細商店のデジタル化が追い風になり、向こう5年で10倍になる見込みだ。通信子会社リライアンス・ジオの加入者は4億人を超え、貧困地域にもネットワークを広げている。フェイスブック傘下の対話アプリ「ワッツアップ」と連携する決済プラットフォームの将来性も大きい。

リライアンスを中国のEC最大手アリババ集団になぞらえる向きもある。しかし、決定的な違いがある。中国政府がアリババと創業者の馬雲(ジャック・マー)氏を打ちのめしているのに対し、インドは国内大手リライアンスのライバルである外資企業を狙い撃ちにしている。インドの競争環境、ひいてはインド自身の未来にとって決して良いことではない。

(c)2021 The Economist Newspaper Limited. April 24, 2021 All rights reserved.

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