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上院決選投票 バイデン政権を左右(The Economist)

The Economist

新型コロナウイルスは多くのイノベーションを生んだ。米国のドライブイン方式の政治集会もその一つだ。12月5日、ジョージア州の民主党上院議員候補のジョン・オソフ氏とラファエル・ワーノック氏は成長著しいアトランタ郊外のロックデール郡で選挙集会を開いた。11月の大統領選でバイデン氏が約70%の票を得た郡だ。

米ジョージア州の現職共和党上院議員に挑む民主党候補ジョン・オソフ氏は3年前の下院議員選では落選した=ロイター

ほとんどの参加者は車内で演説を聴き、拍手の代わりに熱狂的にクラクションを鳴らした。フロントガラスで保護されているにもかかわらず、多様な人種で構成された聴衆のほぼ全員がマスクを着用し、医療や雇用、正義、ウイルス対策に関する候補者の熱弁に耳を傾けた。

共和党は選挙活動での感染拡大など気にしない。オソフ氏の対立候補の共和党のデビッド・パーデュー議員は12月9日、サウスカロライナ州に近い小さな町、ハート郡ハートウェルで政治集会を開いた。同郡はトランプ氏が約75%の票を得たところだ。

ジョージア州の共和党の現職上院議員デビッド・パーデュー氏は自らが民主党の公約を実現させないための防波堤になるとして再選を目指す=ロイター

パーデュー氏の集会は屋内で開かれ、聴衆の多くが高齢者で、現地では新型コロナが猛威を振るっていたがマスク姿の出席者は少なかった。白人だけから成る聴衆は静かにパーデュー氏の主張を聴いていた。民主党が議会の過半を握れば「国境の開放」「警察予算の削減」といった「社会主義的公約」が実行されてしまうから自分がそれを防ぐ防波堤になる必要がある、と。

バイデン氏が望む政治をできるかを決める決選投票

ジョージア州は今回の大統領選で1992年以降初めて民主党候補を選出した。その結果が不服だとトランプ陣営は愚かな訴訟をいくつも起こしたが、次期大統領を正式に選出する手続きである12月14日の選挙人投票でバイデン氏が過半数を得た。だがバイデン氏が政権を思うように運営できるかは、ジョージア州の上院2議席にかかっている。

同州では、大統領選と同時実施した11月3日の1回目の上院選投票で得票率が50%に達する候補者がいなかったため、来年1月5日に2議席の決選投票を実施する。民主党が2議席とも獲得すれば議席数は共和党と同じ50になる。上院は賛否が50対50の場合は上院議長を務める副大統領の1票で決するため、過半数の議決権を握ることができる。

11月の1回目の選挙では、6年前に上院議員に初当選した現職パーデュー氏の得票率は50%に0.3ポイント届かなかったが、民主党候補のオソフ氏を2ポイント近く上回った。

19年末に健康上の理由から引退したアイザックソン議員の残り2年の任期を巡るもう一つの議席を巡る選挙では、民主党のワーノック候補が首位に立ったが、得票率は32.9%にすぎなかった。同氏と争うのは19年12月にジョージア州のケンプ知事にアイザックソン氏の後継に指名され、今回の共和党候補者6人でトップの得票率を得たケリー・ロフラー上院議員だ。期日前投票は12月14日に始まった。

同じく現職の共和党議員に挑む民主党候補のラファエル・ワーノック氏は神学の博士を持つ牧師だ=ロイター

大統領選を除くと民主党支持者は選挙に行かない

どちらの選挙も特定候補が有力視されている。改選選挙では現職の強さとトランプ氏への強い忠誠心、庶民的態度、知名度の高さを誇るパーデュー氏が有利とされる(同氏のいとこソニー・パーデュー氏は南北戦争後の国家再統一後、ジョージア州で初めて誕生した共和党の知事だった)。4候補で選挙での勝利経験があるのは同氏だけだ。

民主党のオソフ候補は熱弁を振るうが、オバマ元大統領をまねて話すとよく評される。メディア企業を経営し、3年前に30歳の若さで下院議員選に出馬したが落選した。

もう一方の議席を巡る民主党候補のワーノック氏の経歴は魅力的だ。ジョージア州南東部の町サバンナの公営住宅で育ち、神学の博士号を持つ。かつてマーティン・ルーサー・キング・ジュニアとその父が牧師を務めたエベニーザー・バプテスト教会の上級牧師に05年に史上最年少で就任。数十年に及ぶ牧師経験から演説はうまい。その対立候補のロフラー氏の演説はぎこちなく、ロボットのようでさえある。同氏は選挙活動ではワーノック氏を「過激なリベラル」と呼び攻撃してきた。

ジョージア州選出のアイザックソン上院議員が健康上の理由から引退したのに伴い同州のケンプ知事に指名されて上院議員になった共和党のケリー・ロフラー氏=ロイター

世論調査ではどちらの選挙も接戦になるとの見通しだが、民主党は勝算があると考えている。

ジョージア州の州都アトランタ市とその周辺地域は、国内の他の地域から専門職を持つアフリカ系米国人などの流入が手伝って人口は増えているが、州内の保守的な地方の人口は減っている。以前、州議会下院少数党院内総務を務めたステイシー・エイブラムス氏率いる活動家らはこの10年、若者や非白人住民に有権者登録を勧めてきた。

共和党は内部対立という問題を抱えている。トランプ氏は、大統領選の"不正"を防げなかったとケンプ知事を「愚か者」と批判。ロフラー氏とパーデュー氏は、不正の根拠を示さずにジョージア州の選挙に不正があったとして、それを無効にしなかった共和党の州務長官に辞任を求めた。強硬右派の弁護士リン・ウッド氏とシドニー・パウエル氏は「中国製の機械で」集計するような「新たな不正が仕組まれた選挙」に投票しないようトランプ支持者に呼びかけている。だがトランプ氏の熱狂的支持者の一部が投票しなければ、パーデュー氏とロフラー氏が当選する確率は下がる。

共和党現職の候補2人にはスキャンダルもある。両者とも米議会の説明会で得た新型コロナ流行に関するインサイダー情報を使って利益を得た容疑で、司法省の取り調べを受けた(いずれも起訴はされなかった。2人は不法行為を否認している)。

だが、これだけで民主党勝利を予想するのは早計だ。大統領選を除くと、民主党支持者は共和党支持者ほど投票に行かない傾向があり、そのため共和党が決選投票で敗れることはまれだ。得票率50%に届かなかったとは言え、11月の上院議員選挙でのパーデュー氏の得票率はトランプ氏をやや上回ったし、もう一つの上院議員選挙での共和党候補者の合計得票率はトランプ氏をやや下回ったにすぎない。

民主党のオソフ候補とワーノック候補は、バイデン氏の公約実現には自分たちの当選が不可欠だと力説している。だがそれにはバイデン氏を当選に導いた郊外の有権者の多くが強い民主党支持者になる必要がある。トランプ氏には投票しなかったが、議員選挙では共和党に投票した有権者の数が不明だからだ。

トランプ氏の共和党内の地位にも影響

決選投票の結果は、上院の勢力図だけでなく、共和党内のトランプ氏の地位も左右する可能性がある。共和党候補の2人は、トランプ氏の敗北にもかかわらず同氏を強く支持し、州務長官などジョージア州で選出された共和党の州政府関係者らを批判してまでトランプ氏の肩を持ち続けている。2人が当選すれば、共和党有権者にとってトランプ主義の魅力は今なお色あせていないということになる。

だが、進歩的な民主党候補2人が当選し、しかも共和党が郊外の有権者を奪還できなかったら、それはトランプ主義の限界が露呈することになる。そしてトランプ氏はホワイトハウスを去るとき、自らの敗北だけでなく、自分を信奉した候補2人の敗北についても悔しく思うだろう。

この上院選は民主党にとっても共和党にとっても、トランプ主義に終止符を打つのか、それが持続するのかがかかっているため何としても勝利しなければならない選挙ということだ。

(c) 2020 The Economist Newspaper Limited. December 19, 2020 All rights reserved.

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