中国利下げ22年で3度目 振るわぬ景気、ゼロコロナが壁

【北京=川手伊織】中国人民銀行(中央銀行)は22日、今年3回目の利下げに踏み切った。今春に悪化した景気の回復が鈍いためだ。金融緩和で資金需要を刺激する狙いだが、新型コロナウイルスの感染封じ込めを狙う「ゼロコロナ」政策が経済活動の正常化を阻む。潤沢な資金を市場に供給しても消費や投資が増えない「流動性のワナ」に陥りつつあるとの見方もある。
人民銀行は毎月、最優遇貸出金利(LPR、ローンプライムレート)を公表している。事実上の政策金利と位置づけている。

優良企業向け貸出金利の参考とする8月の1年物は3.65%だった。7月までの3.70%から小幅に引き下げた。住宅ローン金利などの目安となる同5年超の金利は4.30%となり、0.15%下げた。
前回利下げした5月は、期間5年超の金利のみ0.15%下げた。期間が異なる2つのLPRを同時に下げるのは1月以来、7カ月ぶりとなる。
追加利下げは中国政府が停滞から抜け出せない経済に抱く危機感を映し出している。7月の工業生産や小売売上高は市場予想に反して、6月と比べて減速した。資金需要も冷え込んだ。企業や家計向けの中長期融資の純増額も前年同月より5割近く減った。
新型コロナの感染が一部の都市で再び広がり、移動制限が厳しくなったためだ。8月に入っても景気回復はもたつき、中国政府が描く「年後半の回復シナリオ」は揺らいでいる。
中国の証券会社、広発証券によると、8月前半のトラック輸送量は7月平均を3%下回った。厳しい移動制限が全国に広がる前の3月上旬と比べると2割近く少ない。
もっとも利下げ効果が経済に波及するかは見通せない。壁となるのが、習近平(シー・ジンピン)指導部が堅持するゼロコロナ政策だ。
これまでのゼロコロナ政策で、厳しい移動制限が外食や娯楽、旅行などサービス産業を直撃した。就業者の5割が第3次産業で働いており、サービス業の収益悪化で雇用の回復は遅れている。
人民銀行の預金者向けアンケート調査が所得不安の強まりを示している。次の四半期の所得見通しを聞くと、新型コロナがまん延した20年以降、「減少」が「増加」を上回るようになった。

最新の4~6月調査では、所得見通しを示す指数が遡れる2001年以降で最低を更新した。家計が将来への不安を拭えず、根強い貯蓄志向が常態化している。
家計の預金は1~6月に10兆3300億元(約200兆円)増えた。増加額は前年同期より4割多く、遡れる09年以降、半期ベースで最大となった。人民銀行が金利を下げても銀行にお金が積み上がるだけで実体経済に回らない「流動性のワナ」を指摘する専門家もいる。
地方経済が依存してきた不動産市場が持ち直すかも読めない。人民銀行は住宅購入の需要を刺激しようと、今年3回の利下げで期間5年超のLPRを計0.35%下げた。新型コロナが初めて中国経済を直撃した20年の累計下げ幅(0.15%)の2倍以上だ。

それでも不透明感が消えないのは、住宅市場が混乱しているためだ。
政府の規制強化で不動産開発企業の資金繰りが悪化し、全国で工事を中断する物件が続出した。7月には引き渡しの遅れに抗議する住宅購入者が住宅ローンの支払いを拒否する動きも広がった。
混乱を目の当たりにして、新規購入を控える人も少なくない。主要30都市の1日あたりの不動産取引面積をみると、8月前半は7月より15%減り、市場の調整に終わりは見えていない。
世界では、米欧を中心に高インフレに対応するため利上げを進めている。異次元緩和を続ける日本のほか、利下げによる景気刺激を狙うのは中国やトルコなど一部の国に限られる。
中国の消費者物価指数(CPI)も7月に前年同月比2.7%上昇し、政府の抑制目標である「3%前後」に近づいた。ただ値上がり幅が大きいのは豚肉などの食品や燃料のみだ。家計の購買力を映すとされる「食品とエネルギーを除くコア指数」の伸びは0.8%と、21年4月以来の低さだ。需要けん引型の物価上昇圧力が弱いことも、追加利下げへ人民銀行の背中を押したとみられる。
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