/

[FT]「イカゲーム」人気 回線混雑で動画配信値上げも

注目集める「SKブロードバンドVS.ネットフリックス」裁判

Financial Times

動画配信サービスの米ネットフリックスが韓国ドラマ「イカゲーム」の配信を開始したとき、同社にとって過去最大のヒット作になると予想した人はほとんどいなかった。

そのうえ、この作品が通信量の急増を招き、世界中のインターネット料金や動画配信サービスの利用料が値上がりするきっかけになると想像した人がいただろうか。

ネットフリックスによると、イカゲームの視聴者数は1億人を突破した。同作は、逃亡中の証券マンやギャンブル中毒者など借金を抱えた人々が、3800万ドル(約43億円)の賞金を巡って命がけで子ども向けのゲームに挑むさまをディストピア的に描いている。

同作が大ヒットした結果、韓国通信大手のSKブロードバンド(SKB)が通信量の増加に伴うコスト負担を求めてネットフリックスを提訴する事態になっている。ヒット作を配信した会社は通信回線の混雑料を支払うべきなのだろうか。

韓国の携帯電話最大手SKテレコムが全額出資するSKBは、払うべきだと考えている。SKB回線でのネットフリックスの通信量は、イカゲームの配信が始まった9月に毎秒1200ギガビットに達し、3年余りで24倍に急増したと同社は主張する。同作が招いた通信量の増加に対応するため、回線を2度にわたりアップグレードしなければならなかったという。

イカゲームなど数々のヒット作を追い風に、ネットフリックスは韓国で最も成功した動画配信サービスとなり、2020年は同国での収益が2倍以上に増加した。業界データを提供するワイズアップによると、会員数は8月だけで3分の2近く増加した。

こうした成長を後押ししているのが、現地の通信速度の速さだ。データ分析会社スピードチェックによると、韓国は主要市場で通信速度が最も早く、高速通信規格「5G」のダウンロード速度の中央値は毎秒450メガビットと、米国の11倍にのぼる。政府が過去10年にわたって多額の資金を投入し、この速さを実現するために必要なインフラが構築された。通信会社が高額のインターネット接続料を請求することも禁止されている。

韓国では大口ユーザーが回線コストを負担

その代わり、現地の法律では、大容量データを扱う利用者(通信量全体の1%以上を使用し、100万人以上のユーザーを擁する企業やコンテンツプロバイダー)に対し、ブロードバンドのインターネット回線を提供する事業者が負担する維持管理費を分担すべく回線使用料を支払うよう義務付けている。

公式データによると、ネットフリックスは20年10~12月期に1日の通信量の約5%を占め、有料会員数は170万人を上回る。SKBは訴状で、ネットフリックスは過去3年にわたって支払うべき回線使用料を払っていないと主張している。

問われる「ネット中立性」

ネットフリックスは、プロバイダー(ネット接続事業者)にネットワーク上のすべてのコンテンツを平等に扱うよう求める「ネット中立性」の立場に立っており、回線使用料はその考え方に反すると考えている。同社はSKBが「二重請求」していると主張している。ネットフリックス会員が会費を通じて回線使用料を支払っているうえに、同社にも直接料金を請求しているというわけだ。この請求を巡り、ネットフリックスは昨年、SKBを相手取って訴訟を起こした。

ソウル中央地方裁判所は今年6月、ネットフリックスの主張を退け、SKBへの未払い料金を支払うべきとする判決を下した。ネットフリックスは判決を不服として控訴している。これに勝訴すれば、帯域使用量が制限を超える韓国のすべての国内・海外企業にとっては、自社が支払う使用料に異議を申し立てる道が開かれる。

さらに大きな問題は、動画配信サービスが世界中でますます主流になっていることだ。米メディア大手コムキャストによると、20年は米国のネット通信量のうち、端末側が受信するダウンストリーム(下り)の71%を動画配信が占めた。世界全体の通信量の約3分の2は動画配信が占める。ビデオ会議の利用が急増していることや、自動運転など膨大なデータを処理する技術の台頭と相まって、プロバイダー各社の既存の容量には負担がかかっている。

一方で、ネット中立性が確立されると、プロバイダーはコストのかさむアップグレードや容量増加に投資するインセンティブが乏しくなる。

視聴者にしわ寄せ

そのしわ寄せが視聴者に行く恐れもある。通信回線に過度の負荷がかかれば、動画配信の質が低下するだけでなく、インターネットや通信経路全般の信頼性が低下する可能性があるからだ。プロバイダー各社は利益率がさらに悪化した場合、ユーザーのデータ通信量に厳しい制限を導入せざるを得なくなるだろう。

ネットフリックスがSKBとの訴訟に敗れたとしても、推定8400万ドルの請求金額が同社の収支を著しく悪化させることはないとみられる。だが、世界のプロバイダーにとっては、通信負荷の大きい動画配信会社に対する課金を検討する道が開かれる。

そうなれば、回線のアップグレード費用が企業だけでなく動画配信サービスの加入者全体に分散され、全てのユーザーが値上げに直面することにもなりかねない。結果的に動画配信サービスの定額料金が値上げされる可能性がある。SKBの裁判とネットフリックスの審理はいずれも12月に予定されている。視聴者がイカゲームの次に見るべき対決はこれだ。

By June Yoon

(2021年10月19日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

(c) The Financial Times Limited 2021. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.

英フィナンシャル・タイムズ(FT)と日経新聞の記者が、アジアのテクノロジー業界の「いま」を読み解くニュースレター「#techAsia」の日本語版をお届けします。配信は原則、毎週金曜。登録はこちら。
https://regist.nikkei.com/ds/setup/briefing.do?me=B009&n_cid=BREFT053

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

関連トピック

トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。

関連企業・業界

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン