マレーシア国王、首相任命を延期 連立協議が難航

【クアラルンプール=中野貴司】マレーシアのアブドラ国王は21日、同日午後までとしていた各政党連合の首相候補者名の提出期限を22日午後に延期したと発表した。連立政権樹立の交渉が難航しているためで、新首相の任命は22日午後以降となる見通しだ。
19日投開票のマレーシア連邦議会下院選(定数222)では、野党の希望連盟が最大の82議席を、解散前にイスマイルサブリ連立政権の一角を占めていた国民同盟が73議席を獲得した。この2党が過半数の確保に向け、30議席を持つ国民戦線や合計で約30議席の地域政党との交渉を続ける。
希望連盟トップのアンワル元副首相は21日午前、国民戦線のザヒド総裁らと会談した。希望連盟と国民戦線の議席を合計すれば、過半数の112に達する。
会談後に会見したアンワル氏は「連立政権で合意できると楽観している」と述べたが、「まだ最終決定ではない」とも付け加えた。別に会見したザヒド氏はどの陣営を支持するか明らかにせず、調整が続いているとして、国王に提出時期の延期を要請したと説明した。
国王は当初、21日午後2時(日本時間午後3時)に設定していた首相候補者名の提出期限を22日午後2時に延期した。国王は声明で「行政は通常通り機能している」と強調し、国民に平静に見守るよう要請した。

一方、国民同盟は21日、既に半数を超える勢力を確保し、同党トップのムヒディン前首相を首相候補者とする文書を国王に提出したと主張した。国民同盟は20日時点で、22議席を持つサラワク政党連合や6議席のサバ人民連合との連立で合意したと発表していた。この2つの地域政党の議席を足しても101議席にしかならず、それ以外のどの勢力から支持を確保しているのかは不明だ。
希望連盟、国民同盟が過半数を確保するには、国民戦線の支持が欠かせない。どちらの陣営を支持するかで、国民戦線内の意見は割れているとみられ、トップのザヒド氏は期限の22日午後2時までの意見集約を目指す。
キャスチングボートを握り、本来は有利な立場にあるはずの国民戦線だが、新たな政権で影響力をどの程度行使できるかは未知数。議席数が改選前の42議席から30議席に減り、自ら首相候補を出せないためだ。
国民戦線所属のイスマイルサブリ氏が10月に解散したのは、直近の州議会選挙の結果などから、議席数を拡大できると判断したからだった。しかし、汚職事件で起訴されているザヒド氏らへの風当たりは想定以上に強く、支持基盤のマレー系の有権者の票はムヒディン氏の国民同盟に流れた。
クアラルンプール近郊のスランゴール州に住むタクシー運転手のアズマンさん(53)は「ザヒド氏は有権者ではなく、自分の保身しか考えていない」と怒り、国民同盟の候補に投票した。1957年の独立以来、長く政権を維持してきた国民戦線の退潮が止まらない。